あなたのために
「なに、可愛い後輩がせっかく自分の能力を開示してくれたんだ。こちらも出さないとな」
カンナが自分の能力を開示したのだからこちらも開示しなければ不公平というものだ。
隠すほどのことでもないし、今ばらしてしまおう。
「俺の武具は複数の能力があってな」
その名を"歩み始める者"という。全部で8の文言があり、その文言を自分で好きに解釈して能力を開発することができるものだ。解釈の内容は自由で、一見関係ないものでも文言から連想したものならば創造できる。想像によって能力を創造する武具だ。
ひとつひとつの解説は今は置いておこう。重要なのはナツメが複数の能力を有する武具を持っているということだ。
そしてその中に、カンナの計画を実行するのにぴったりなものがある。
"志願者による宿意"との文言が割り当てられているそれは、まるでバトンを渡すように他者へ魔力を譲渡することができる。他人からナツメへも、ナツメから他人へも、受け渡しの方向は自在だ。
それを用いれば魔力についての問題もクリアできるだろう。なにせ120年生きている最強のルッカだ。魔力量には自信がある。自分の魔力をカンナに受け渡せば、あとはその魔力を使ってカンナが改変をなせばいい。いわば自分は外部電源だ。
これなら魔力の問題は解決できるのではないだろうか。妙案じゃないかとベルダーコーデックスに笑いかける。
「はん、やっぱりバカだな」
妙案ぶっているがお生憎様。その程度の魔力でできると思っているのか。
やろうとしているそれは"大崩壊"から現在までの2000年間を書き換えるのに等しい。2000年に対し、たかが120年程度が対抗できるだろうか。答えは否。
「もっとたくさんの魔力が……」
「待って、ベルダー」
「あん?」
黙っていたカンナがここでやっと口を挟む。
待ってとベルダーコーデックスを止め、それからナツメに向き直る。
「ナツメ先輩。その能力は他人から他人に譲渡できますか?」
他人からナツメへ、ナツメから他人へ、ではなく。他人から他人へ直接譲渡させることはできるか。あるいはナツメを挟んでも負担ではないか。
問えば、あぁ、とナツメが頷いた。他人から他人へ直接譲渡できるし、間にナツメを噛んでもナツメに負担はない。
うん、とカンナが頷く。確認したいことは確認できた。じゃぁ、とベルダーコーデックスに視線を移す。
「ベルダー、2000年の改変は120年くらいじゃ無理って言ったよね?」
「おう。……ってまさか」
まさか、とベルダーコーデックスが冷や汗を垂らす。そうだと肯定するように続けた。
「ヴィトの魔力を使えばいいじゃない?」
2000年生きた魔女ならば、2000年の歴史の重みに負けはしないでしょう?
にっこりと言い放つ。ナツメじゃ足りないというのなら、ヴィトの魔力を借りればいい。
ヴィトの魔力をナツメの武具でもって譲渡し、受け取ったカンナが改変をなす。これですべての問題がクリアできる。
あとはヴィトが力を貸してくれるかどうかだが、まぁ悪いことはしていないので説得次第で応じてくれるはずだ。
「よし、いったん整理してもいいか?」
話が壮大で突拍子もないので一回まとめたい。前置きして、ナツメが話を取りまとめる。
カンナの能力は真実改変。ベルダーコーデックスを用いて改変し、ヴィトが置かれている状況を変える。
改変するのは"灰色の魔女"の正体。『"灰色の魔女"は破壊神メタノイアである』という認識を差し挟むのだ。そうすることによってヴィトを"灰色の魔女"でなくさせる。"灰色の魔女"という身分から解放されれば、世界中から憎悪を向けられることはない。
そうすることによって、ヴィトの2000年の孤独を癒やすのがカンナの目的だ。そのために世界の改変をなす。必要な魔力はナツメの魔力譲渡能力でもってヴィトから供給してもらう。
そこまでがカンナの計画。間違いないなと訊ね、うん、と肯定をもらう。長々と必要な条件を並べたが、目的と工程はそれで合っている。
よし、と頷く。ならやるべきはヴィトを説得して協力してもらうことだろう、と結ぶ。
話がまとまった。では。
「そろそろ授業の時間じゃないか?」
「あっ」
「はは、送ってやるさ。そら。"放浪者の騎行"!」
これもまたナツメが持つ武具の能力のうちのひとつだ。転移魔法を展開し、カンナを校舎の近くへと転移させる。
客人が去って静寂を取り戻した空間で、ふぅ、と息を吐く。
カンナの計画に便乗してこちらも愛する魔女を殺す計画を組み立てよう。
破壊神メタノイアがキーだ。あれを直接復活させるのは諦めよう。節約を提案しておいて、それを翻してやっぱり実在しているというように書き換えようと手のひらを返すのは不自然すぎる。
復活は諦めた。だが、それでもどうにかできる。カンナの改変によって、破壊神メタノイアの存在は歴史に消えた曖昧な伝承から確固とした事物になる。ヴィトの証言だけではなく、ベルダーコーデックスにより改めて『居た』ということが保証される。
伝説は肉付けされる。いるかどうかもわからない曖昧な存在がはっきりと輪郭を持つ。その時、曖昧な伝承のまどろみからメタノイアは起き上がるだろう。起き上がった時、メタノイアは自身に与えられた命令を遂行する。
――破壊神メタノイアが作られたその当時、抹殺対象に指定されたのは神ではなくボクだった。
そう。いつか語ったヴィトの言葉が本当ならば。
神の国からこの世界へ、破壊神メタノイアは降臨するだろう。2000年越しに命令を遂行するために。
そうすればヴィトは死ぬ。愛する女はやっとそこで死ねるのだ。
その後のことなんて知ったことか。愛する女の望みが果たせるなら世界など平らげられてしまえ。




