嘘を成立させるために
「だが念のため聞きたい。本当にできるのか?」
カンナの計画はわかった。だがそれは本当に可能なのか。ナツメが気になっているのはそこだ。
成功すれば歴史を書き換えることになる。小石をガラス玉に変えるのとはわけが違う。
「理論上は可能だな」
答えたのはベルダーコーデックスだった。
保証しよう。条件さえ整えば可能である。
どんな内容でも対象でも、改変をなすにはそれをやる魔力と下地になる情報、そして改変が矛盾なく成立するための理論が必要だ。
先程小石をガラス玉に変えたが、その工程もそうだ。下地になる情報のためにまず最初に小石の『真実』を読み取って砂岩であると見抜いた。そしてその砂岩をガラス玉に変えるために『手に握った瞬間に入れ替えた』という嘘を差し挟んで改変の理論を組み立てた。入れ替えたという嘘は看破されなかったので理論が成り立ち、改変が成功した。
最初に小石を砂岩と読み取るためと、改変のためのコストとして少量の魔力を消費した。
そう、相応の魔力と情報と理論さえあれば何でもできる。
小石をガラス玉に変えることも、架空の人物を実在させることも、記憶も人格も書き換えることも、歴史を塗り替えることも。
やろうと思えば何でもできる。
「情報については調べりゃいい」
なにせ自分は真実の書。未知を既知に引きずり落とすことは大の得意だ。誰も知らないはずの秘密ですらベルダーコーデックスにかかれば公然となる。
それを元にすれば理論も吐ける。難しいことは何一つ無い。
「ま、魔力があればの話だがな」
そう。難しいことは何一つ無い、が、どうしようもない課題がひとつある。
それは魔力だ。改変する物事の規模に応じて相応の魔力が必要となる。
カンナの計画に沿って例えるなら、まずはメタノイアについての情報を得るため、メタノイアの『情報|《真実》』を読み取るための魔力。伝承の存在をより詳しくするのだから、これだけでもかなりの魔力が必要だ。
そして改変するためのコストとしての魔力。伝説の『深淵の口』が現存するなんて大規模なことをやるのだから、やはりこちらも相応量が必要になる。
さらには、メタノイアに与える魔力も必要となるだろう。なにせせっかく復活させたメタノイアが弱かったらどうしようもない。そんな脆弱なものが"大崩壊"を起こしたのかと疑問に持たれたら嘘がばれて改変が崩れてしまう。そうならないよう、これなら"大崩壊"を起こしうるだろうという説得力のため、術者からメタノイアに魔力を分け与えなければならない。
どれもこれも、カンナごときの魔力では足りないということだ。どんな強力な大魔法も魔力がなければ発動できない。雨滴ひとつで水車を回そうとするようなものだ。一滴ぽとんと落ちただけでは水車はとうてい動きはしない。
カンナの改変には矛盾はない。やろうと思えばできるだろう。ただし、魔力があればの話だが。
カンナにはそれがないのでできない。よって無理だ。壮大な夢は夢のままだ。
「歴史を書き換えるなんてできると思ったか? バカが、分相応ってヤツを知れよ」
はは、とカンナを嘲笑う。
今まで黙っていたのはこのためだ。自信満々に能力を披露して、計画を熱弁して、そこに冷水を浴びせるため。滑稽なカンナをより美味なタイミングで嘲笑するためだ。
ここになってようやくネタばらしができた。あぁ気持ちいい。間抜けなカンナを堂々笑い飛ばす。
「……ふむ」
少し計画を変える必要があるようだ。内心蠢く思考を走らせ、表向きはカンナに寄り添うように優しく繕う。
「何も現在に存在する必要はないんじゃないか?」
カンナの計画の主題は"大崩壊"を起こした原因がメタノイアであるということ。何もそれが現代にまで現存する必要はないのではないだろうか。
ヴィト曰く、メタノイアは原初の時代に確かに存在していた。"大崩壊"よりも以前、神殺しを計画する不敬な集団によって作られ、彼らが打ち破られてしばらくしてから神々に回収された。"大崩壊"が起きたのはその後。
『"大崩壊"を起こしたのはメタノイアである』という改変をするならば、この時系列を修正しなければならない。だってこの世界から去ったものがこの世界に干渉できるはずがない。
だから改変するならこうだ。『メタノイアは"大崩壊"を起こし、神々によって神の国に回収された』と。
こうすれば現在に現存する必要はなく、ベルダーコーデックスの言っていた『説得力のための魔力』は必要なくなる。だいぶコストが節約できるのではないだろうか。
内心、メタノイアが現存するという一番のシンプルな未来を捨てることになるのは惜しいがまぁ代案はある。心の内のものを隠し、カンナの意向に沿うように修正案を提案する。
「まぁ。そうだな。それで?」
節約はできた。しかしそれでも情報を調べるための魔力と改変のための魔力は必要となる。
本物を知るヴィトに問えば、情報を調べるための魔力はいくらか節約できるだろう。だがやっぱり改変のための魔力はどうしても必要だ。
それだけ切り詰めてもカンナには支払えない。結局話は夢のまま終わる。
最強のルッカも意外とバカだなと嘲笑うベルダーコーデックスへ、そうか、と冷静に返す。
魔力が問題か。成程。ならさらなる提案がある。
「俺の魔力を譲ろう」




