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彼女をどうするか

"大崩壊"の原因は"灰色の魔女"である。これが世界の常識である。

カンナが注目しているのはそこだ。『ヴィトである』と名指しされているわけではない。なら、改変して別の解釈を差し挟ませることは可能だ。


破壊神メタノイアは"大崩壊"を起こしうるだけの破壊力を持っている。これは間違いない事実だ。

なら、"灰色の魔女"イコール破壊神メタノイアだというふうに書き換えればいい。まるで砂糖に塩のラベルを張り替えるように、"灰色の魔女"のラベルをヴィトからメタノイアに張り替える。

強大な破壊力を持つメタノイアは"大崩壊"を起こしてもおかしくはないし、そのラベルに矛盾はなく、書き換えは成立する。

そうすればヴィトは"灰色の魔女"のラベルを失い、世界中から憎悪されることもなくなる。強大な魔力を持つ不老不死の女であることは変わりないが、憎悪の矛先が逸れることは重要な変化になるだろう。


もちろん、この改変には課題もある。嘘は論破されたら成り立たない。改変を行っても、それが嘘だと見抜かれれば虚偽は破れて真実が露呈する。この場合、"灰色の魔女"はヴィトだと証明されたらラベルは元通りだ。そうならないよう、ヴィトが"灰色の魔女"だと知る者の記憶を改変せねばならない。そこでもまた嘘を吐いて記憶の改竄を成り立たせないといけない。嘘をひとつ吐くとそれを押し通すために嘘を重ねないといけない法則だ。


だがもし、針の穴に糸を通すように精密に矛盾なく整合性が取れれば、改変は成り立つ。


「ちょっと待ってくれ。整理したい」


あまりにとんでもなさすぎる。ベルダーコーデックスの能力も、それを用いたカンナの計画も。突拍子もない。だが『できる』。

少し落ち着いて自分の中で整理したい。5分だけ時間をくれと言ってナツメが目を閉じた。ふぅ、と息を吐いて目を閉じて集中して思考を整理する。


俺の愛する魔女はメタノイアくらいじゃないと殺せない。それは彼女から聞いている。

だが、メタノイアは存在しない。神々によって神の国に回収されてしまった。表向きそうなっているだけで実はどこかに、ということもない。100年かけて探したし、ついには真実を司る氷神にも答えを求めた。結果は『無い』と断言されてしまった。氷神が『存在しない』と言ったのなら、無い。

ならメタノイアに並ぶくらいの強さを手に入れればいい。しかし人間風情がどんなに力を求めてもメタノイアには並ばない。それもまた氷神に保証された真実だ。

だが自分はそうですかと諦めず、修業を続けてきた。すべては愛する女を殺すため。そのためなら深淵の闇に蠢く口にその身を放り込むことすら厭わない。

そう思って今までやってきた。


――だが、カンナの話したことが実現できるのなら。


今までの認識は覆る。話はずっとシンプルになる。

その改変に便乗してひとつ要素を差し挟めば、魔女は殺せる。


カンナが計画していることは伝承の存在を実在すると肉付けすることだ。『メタノイアが本当に居るなら"大崩壊"が起こせるかも』という可能性にリアリティをつけて『"大崩壊"を起こした』と書き換えること。

カンナにしたがって『"大崩壊"を起こしたのはメタノイアである』と改変されれば、回収されたことはなかったことになる。『"灰色の魔女"は今も生きている』という世界の常識と整合性を取るため、破壊神メタノイアは今も現存することになる。


なら、それを自分が手に入れれば、魔女は殺せる。


簡単な話だ。


「……うん、妙案だ」


その計画に賛成しよう。思考を終え、ナツメは頷いた。


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