あなたを殺しうるもの
消滅させず、努力を評価し召し上げた。それはまだ神々が人間を嫌っていない証左ではあるのだが。
その裏にあるものをヴィトは予感している。神々のことだ。どうせろくでもないことに使っているに違いない。
だってあの破壊力は指折りだ。あの破壊力は"大崩壊"に匹敵する。意図的に起こせる"大崩壊"のトリガーがあるのならば確保しておきたいはず。いずれ人間を滅ぼすために。不信をなして裏切った人間への復讐のために。
話が逸れた。神々の意図については自分の胸にしまっておくとして。そう、あの破壊力の話だ。
「アレはとんでもないからネェ……試運転で国ひとつ更地にしたり、ネ」
事実それをやった。規模こそ及ばないが、仕組みは"大崩壊"と同じだ。高密度の魔力による直接的な破壊と拡散した魔力による魔法の発露。それらは国ひとつを更地にした。
メタノイアからすれば目覚めの欠伸くらいのものだったろう。それが大地を消し飛ばし、不毛の地と化した。
「そ、そんなに……?」
「そんなにサ」
あの破壊力をすべて一点に集中させて放てば"灰色の魔女"とて死ぬだろう。
メタノイアがあれば死ねていた。なんて惜しい。神々に回収されていなければそれで死ねたものを。
口惜しむヴィトの様子を見、カンナは本を整理するふりをして考え込む。
おそらく、今言ったのは事実だろう。メタノイアの存在と、その破壊力の保証。
語る破壊力が本当なら、メタノイアは"大崩壊"にさえ匹敵する。
「……ん?」
「どうしたノ?」
「あ、ご、ごめん。なんでもない」
思いついてしまった。思わず漏れた声をごまかしつつ、今掴んだ発想を引き寄せて肉付けする。
メタノイアは"大崩壊"に匹敵する破壊力を振るえる。その破壊方法も"大崩壊"と同じ。
だとするなら。
――なら、メタノイアが"大崩壊"を起こしたことにできないだろうか?
カンナが思いついたのはこうだ。
ベルダーコーデックスによって、"大崩壊"の原因をヴィトからメタノイアに書き換える。語られた破壊方法と威力が本当ならばメタノイアは"大崩壊"と同様の現象は起こせるはずだ。
『"大崩壊"はメタノイアが起こした』。こう書き換えれば、歴史は変わる。ヴィトは世界に仇なす"灰色の魔女"ではなくなる。そうすることで世界中の憎悪から免れる。
不死についてはともかく、憎悪の矛先をずらすことはできる。それはヴィトの心をお大いに救えるのではないか。
あわよくば、そう書き換えたことによってヴィトの不死にも何かしらの影響が出るかもしれない。
具体的な方針が見えてきた。昨日考えついたことと合わせてナツメに相談してみよう。うん、と決意を固め、そして仕事に戻る。貴重な話に夢中になってほとんど手が止まっている。そろそろ終わらせないと司書に怒られてしまう。
「ジェーンドゥは怒らナイと思うケドネ」
魔法で一瞬で片付くことをわざわざ生徒の手に任せているのだ。もたもた片付けているくらいで怒りはしないだろう。完了しなかったらしなかったで、できなかったぶんを魔法で片付けて終わりにする。
そこに怒りも失望もないだろう。あぁそう、と淡々とするだけだ。
「あのコもリグみたいにもう少し感情豊かにすればイイのに」
姉を見習って。こぼすヴィトの言葉にカンナが目を丸くする。
「リグラヴェーダ先生と司書さんって姉妹だったの?」
「そうだヨ」
直接の血のつながりはないが。絆的な意味として。
接し方としては親子のそれに近いのだが、外見的な年齢としては親子より姉妹に近いのでそういう形容になっている。外見的な年齢というのはもちろん魔力による加齢の減速の話だ。彼女たちもあぁ見えて齢は100以上越えている。姉の方など3世紀は生きている。
「そうだったんだ……」
「そ。だからボクもそこそこリグとは胸襟を開いて話せるのサ」
数少ない対等な友人として。友人と呼ぶにはあまりにも腹の底を知りすぎてその単語は似つかわしくないのだが。
例えるならそう、腐れ縁だ。
「リグと仲良くするとナツメが対抗心出して面白いんだヨネェ……」
「おちょくってる?」
「そりゃモチロン」




