魔女殺し同盟
寂しい。そしてもうひとつ思ったことがある。
「私は神秘学者を目指してるんです」
神秘学者とは世界を解明する者だ。世界の真実や歴史を読み解く学者である。
それを目指す者として、『こうだからそうなのだ』と鵜呑みにしたくない。他の手段はないのか理論を検証して確かめたい。他人に答えを吹き込まれるのではなく、自分の目で見て正解を導き出したい。
きっとナツメは他の手段を模索する足掻きの段階も終えて、これしかないと苦渋の果てに決断を下した後なのだろうが。
けれど自分が再検証することで別の着眼点が見つかるかもしれない。それに賭けてみたい。
『こうだからそうなのだ』で諦めたくない。
ヴィトが死ぬ、殺すことを是としたくない。話したことは数回、だがそれでも気の置けない友人くらいには思っている。友達が死ぬことを看過できないし、したくない。
「ふむ」
他の手段を模索してみたい、か。成程。ナツメにとってはその段階は90年ほど前に通ったのだが、やってみたいというなら止めない。
神秘学者を目指しているのならなおさらだ。『こうだから』と鵜呑みにするのは神秘学者にとっての最悪の悪手だ。わかりきっている結果でも検証し、知ることは神秘学者の基本だ。無知のまま目の前に提示されたものを選択するのは愚の骨頂。
「ともかく、かの魔女を解放してやりたいという気持ちは一緒だということだな」
「えぇ。それはもちろん」
「なら目標は一緒だ。目標が一緒なら協力しないか?」
「協力……ですか?」
ああ、とナツメは頷く。
「俺は90年前に『これしかない』と結論をつけた。何度も検証を重ねた末にだ」
だが、カンナは新しいアプローチを探したいと言った。ただの再検証になったとしても。『これしかない』という再確認になったとしても。
その意志は最大限汲みたい。だから協力しよう。ナツメは先行研究としてカンナに情報を渡す。そしてカンナは再検証の結果をシェアする。
検証をしてもまったく同じ結果になるとは限らない。なにせ先行研究は90年前。90年も経てば何か新しいものが生まれているかもしれない。新しい着眼点が見つかれば、別の方法も見つかるかもしれない。
「手を組んで彼女を殺すんじゃない。得た情報を共有するだけの協力さ」
得た情報をどうするかは各々だ。ナツメはその情報をヴィトを殺すために使うつもりだが、カンナが殺す以外の手段を探して実現するというのならそれで構わない。その模索と実現の邪魔をするつもりはない。
「わかりました。でも、ひとつ教えてください」
「なんだ?」
「どうして私なんですか?」
ナツメは最強のルッカだ。人々の尊敬を集めるナツメが、どうして名声も地位もないカンナにこれほど構うのだろう。他にもルッカはいるし、しかも魔女を殺すという目的で合致しているのだし、他のルッカと協力するほうがよっぽど自分の夢が叶いやすいじゃないか。
魔女殺しを目指すナツメとヴィトを殺さず済む道を探すカンナ。目指す目的がまるっきり違う。
なのにわざわざ協力を言い出すのはどうしてだろう。2000年の孤独を想像して感情移入したからか。確かに世界に憎まれる魔女に同情するのは珍しいだろうが。
「彼女が君のことを友達と呼んだからさ」
愛する女の友人が何かをなそうと目標を抱いている。だったらそれに協力するのが男じゃないか。知恵を貸すくらいなら安いもの。こちらも得られるものはあるのだし。
しかもカンナは今の時代において2人目の友達だそうだ。数少ない友達なのだからなおさら。
たったそれだけの理由だ。そこに魔女だルッカだは関係ない。
そう言い切るナツメに偽りはなさそうだ。信用してもいいだろう。ならそれを呑もう。
協力お願いしますと手を伸ばす。朗らかな笑顔が手を握り返してくれた。
「ちなみに1人目って……?」
「俺だが?」
「それってフラれてません?」
愛してるとあれだけ言っておいて、ヴィトからの認識は友達だなんて。
それは間接的にふられているのでは。
「そうだが?」
それ、認めていいんですか。




