春が終わり、夏が始まる
春が終わり、夏が始まる。
ハルヴァートの件から2週間後。ヴァイス高等魔法院は2つの空気に包まれていた。初夏を感じる汗ばむ陽気と、もうひとつ。
「あれがウワサの?」
「みたいよ」
「すごいわよね、事件を解決だなんて」
ハルヴァートの行為は校内生徒全員の知るところとなっていた。
あれだけの大事件だ。無理もない。さすがに全容は伏せられているが、ハルヴァートがアルヴィナを自殺に見せかけ、それをカンナが解明したというくだりは広く広まることとなってしまった。
おかげで噂と好奇の視線が耐えない。はっきり言って気まずい。うぅ、と唸るカンナを見かねてレコが周囲に睨みをきかせるがさほど変わりはない。遠巻きに噂の人物を見物する輪は解散しないし、好奇の視線は無遠慮に向けられたままだ。
「ははっ、すっかり有名人じゃねぇか」
「気まずいよこんなの……」
教師陣は配慮してくれているが、それでも気まずい。
とても気まずい。有名人になって注目を浴び慣れていないので余計に。どこかに逃げたい気分になる。
有名人じゃないかと笑うベルダーコーデックスもまた噂の人物もとい書物として挙がっている。あれを用いて真相を究明したのだ、あれは真実を映す本だという話は有名になってしまった。
ハルヴァートのことを抜いても喋る本だなんて珍しい。それで余計に注目を浴びてしまう。
噂のほとぼりが冷めるまで寮の部屋に引きこもろうか。授業だけは最低限出席する。自習と課題提出で済ませられるならそれで。できるだけ人の目に触れないように。
それくらいのほうがいいかもしれない。はぁ、まったく。
何度目かの溜息を吐こうとした。その時。
「英雄だ! 英雄の帰還だ!! ルッカが帰ってきたぞ!」
割れるような歓声のごとく、喜びの大声が響いた。
カンナから報せを持って駆け込んできた男子生徒へ、人々の視線が一気に集まる。肌で感じるほど明らかに空気が変わった。羨望と期待と憧憬の視線が正門の方角に注がれる。
カンナを遠巻きに見ていた人垣の視線だけではない。他の教室からも、実習室からも、ありとあらゆる窓から人々が正門を見ていた。
この高等魔法院に所属するすべての人間が正門を見ている。初夏の鋭い日差しでさえその帰還に注目しているようだった。
その視線を真っ直ぐ受け止め、堂々と正面から歩いてくる人物がいた。まるで凱旋のように胸を張って、自信と誇りに満ちた顔で。黒髪の下の黒曜石の瞳は少しも怯むことはない。肩で風を切るように歩く男がまとう雰囲気は絵本の挿絵に出てくるような馬に乗った甲冑の騎士を彷彿とさせる。
正門をくぐり、注目の中を真っ直ぐ進む。寮と校舎が向かい合う中央広場まで進み出た彼は注がれる視線を順番に見はるかし、そうしてよく通る声で言い放った。まるで宣言のように。宣戦布告のように。吉報のように。
「――やぁ諸君、俺が帰ってきたぞ!」
季節がめぐる。