逃走
追われていた。
抗おうにも身体能力に差がありすぎて成すすべがない。
当然掴まれば只では済まない。
逃げるしかなかった。
3階の踊り場から転げるように階下に降り、近くの部屋に飛び込む。
なんとか距離を離してきたので、静かにしていればやり過ごせるだろう。
外の音に耳を澄ませ息を殺す。
長く走っていたせいで動悸が激しい。
「誰?」
と、小さな声がした。
先客がいたらしい。
薄暗い室内の奥から出てきたのは女性だった。
人の声が聞けたというだけで、緊張の糸が大きく緩む。
どうやら彼女も逃げてきたらしい。
しかし互いの情報を交換しても不可解な状況には変わりがなかった。
ヤツらが何なのか、どこからきたのか、どれくらいいるのか、目的はなんなのか。
「うちは大丈夫だから、少し休んで。落ち着いたら逃げましょう。」
まだ息があがっている私にそう言って、彼女も腰を下ろした。
痛みを感じ顔をあげた時には彼女はヤツらと同じ姿をしていた。
どう逃げたか分からない。
気づけば息は限界まであがっており私の体はかなり傷ついていたが、ヤツらの姿は近くになかった。
訳が分からなかった。
兎に角、誰かに話して落ち着きたかった。
「きっと大丈夫だから、まず安全なところを探そう。」
そう言ってくれたのは、帰宅途中の親切なサラリーマンだった。
取り乱した私の話をよく聞いてくれた。
ただ嫌な予感がした。
次の瞬間にはそのサラリーマンもヤツらと同じ姿をしており、私を掴もうとしていたのだ。
ビルの受付嬢も、ジョギング中のおじさんも、コンビニの店員も、ダメだった。
一体どこに逃げればよいのか。
警察?自衛隊基地?それとも国外か?
我ながらまだ冷静な事が可笑しく思えた。
ただ思考と体力は別で、逃げ続けたために息が苦しい。
隠れる場所を見つけなければすぐにも倒れてしまいそうだった。
目に付いた公衆便所に駆け込む。
ひとまず隠れることはできそうだ。
走り続けて熱くなった体を冷やすため洗面所の水を出す。
そして鏡に映った私の目を見た瞬間、目覚めることができた。
見慣れた天井を見て、大きく息を吐き独白する。
「ボクは大丈夫
了