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第0話 はじまりの願い
魔神は、目の前に立つ男に言った。
「お前の願いは叶えてやろう」
人間の男が安堵の息をつく。緊張が解けゆくのと同時に、喜びの色が広がっていくのが容易に見て取れた。
魔神は、口元が緩みそうになるのをぐっと堪える。この瞬間を待っていたのは、彼もまた同じだった。
長年、待ち望んできた時が訪れた。間にあった。ようやくめぐり会えたのだ。
この機会を逃すつもりなど毛頭ない。
「ただし、条件がある」
魔神は厳かに告げた。
男が身を強ばらせ、魔神を見据える。
魔神はゆったりと目をすがめ、人間の男に語りかけた。
「なぁに、簡単なこと。ただ俺の願いも、お前に叶えてもらいたいだけだ」
男にしてみれば魔神の提案は予想だにしなかったものに違いない。緊張で硬直したままの男は、思案するように押し黙った。
しかし、それも一瞬のこと。
男の双眸に宿る強い決心を覆すようなものではない。
そうして、人間の男は魔神に問う。
魔神には、自然と溢れ出てしまう笑みをこれ以上押し留めることなどできなかった。
「あなたの願いとは……?」