血を統べる
ライオットの去った部屋にノックが響く。オルガイアの受講時間のため講師扱いのアルハを迎えに来たのだ。
女性の使用人に先導され、煌びやかな子供部屋であるオルガイアの居室へ。到着するや歓待に現れた天使は踊るようにアルハの手を引いて別の場所へ連れていく。
「オルガ殿下、ど、どこへ行かれます?」
「んふふー」
辿り着いたのは城内だろう四方を白い石壁で囲われた中庭だった。中央には明り取りにガラスをはめ込まれた大きな屋根のある東屋に円卓が設置されており、見覚えがあるかもしれないようなないような面々が座って歓談している。
その中で確実に面識のある年長者が立ち上がり手を振ってみせた。
「やあアルザ嬢、オルガイア殿下。」
「ウィルル!ほらアルハこっちこっち!」
なにがなにやらと回り込んで、並んだ二つの空席にオルガイアと二人並ぶと、円卓の面々が一斉に立ち上がった。
「では、年長者である私から。王位継承権二位、第一子ウィルオスト・ブルーム・イフスエル改め、ウィルオスト・ローズ・イフスエル。」
「はじめまして。第一王女であり第二子のペリオミズ・ブルーム・イフスエルですわ。」
「…王位継承権三位、第三子、ジョッシュ・カカロン・イフスエル。」
「あ、ぼくだ。一位で四番目のオルガイア・ライオネル・イフスエルです!9歳です!」
年上三人がオルガイアを生温い目で見やり、内一人のウィルオストが「第二王女、第五子スカイラーラは欠席」と告げる。
「はっ!王位継承権四位で、えっと、第六子の、シルブルム・アゲンスト・イフしゅエル、ごさいです…!」
顔を真っ赤にしたシルブルムをオルガイアが励まし、ジョッシュとペリオミズが「噛んだ」「噛みましたわね」と小さく野次る。
国名を背負う面々に気の遠くなるアルハだが、その目線が集まったことにより震える口をなんとか動かして己の名を紡いで腰から頭を下げた。
「尊き皆様方に拝謁の栄誉を賜りますアルハ・アルザでございます。畏れながらオルガイア殿下の講師を拝命いたしました。よろしくお願い申し上げます。」
訪れる沈黙。
「…オルガイア殿下、その辺境伯令嬢はなぜ首を差し出している。落としてほしいのか?」
「ううん、作法だよ!アルハ『面を上げよ』?」
「…すみません」
緊張でお辞儀をしてしまったアルハはオルガイアに訂正もできず心中羞恥の涙を流しながら上体を起こし、改めてカーテシーを披露した。
「さぁ、座ろう」
ウィルオストの言葉で一同が席に座った。
「さて、いきなり大勢で押しかけて驚かせてしまってすまないなアルハ嬢。先日の歓談で触れた貴女の知見は、国や王族の未来の一旦を担う私たちも共有すべきだと思い陛下に臨席の許可をいただいたのだ。よろしく頼む。」
「俺達はまだ『オルガイア・レポート』を読んでいない。貴女の話を聞いたうえで求むならば開示すると言われた。…だから、二度手間に等しい問答もあるだろう。留意してほしい。」
「私はスカイラーラと同じく他国に嫁ぐでしょうから、差し障りない内容をお選びなさいね。」
アルハは大いに困惑した。何について語ればいいのか、何の話を聞きたいのか具体的によくわからない上、具体案を出す前知識も備えていないときた。
そっとオルガイアを見やると、筆記用具を広げてわくわくとしている。
「えっと…二百に満たないくらいの国々が存在する見知らぬ世界で、おそらく最長の皇歴をもつ国に生まれ住んでいる一般女性を仮定してください。彼女に何を問いますか?」
心底困った顔で話題を迷うアルハに、王子王女達は惑う。そのなかで、すっとウィルオストが掌を向けた。
「皇室の成り立ちと役割を。」
議題を得るもアルハは悩む。己が国の基幹ながら教育として詳細に習ったり、世間に常識として浸透しているとは言い難い事柄だからだ。
とはいえにわか知識と憶測だとしても文句をつけられる者もない。あくまで素人意見ですが、と前置いてから説いた。
「はい。ええと…遥か遠い昔、定住し畑を耕すことを覚えた野人はやがて各所で国を形成し、色々あって国々の統率者たる一個の血を定めるに至ります。三千年に届かないその皇歴の始まりは創世神話に紐付けられ、創世神から派生し神界より派遣され国土を産んだとされる夫婦神の娘の息子だか孫だか?が紆余曲折を経て統率者、初代天皇として立ったような…。」
高天原たる神界からの任命と派遣がてらの婚姻と根源の営み。イザナギとイザナミは共に負った任務で共に海をかき回し、捏ね上げた地に降りて手探りに体を重ね国土を産み拡げ、世に理の神々をも産み落とした。
国生みがための交わりは互いへの愛や情からではなかった。それでも、末子の火神を産む際に焼けたことで死んだイザナミに涙し、我が子である火神カグツチを屠ったイザナギ。甘んじて屠られたカグツチ。黄泉の国へ追い縋るイザナギも、醜い己を見られたくないと拒むイザナミも。信じて晒した己に慄き逃げたイザナギに対するイザナミの怒りもすべては育まれた愛ゆえに。と、脱線した思考を払う。
「神が王を遣わしたというのならよくある話だな」
ウィルオストの言葉をアルハは肯定する。
国産みの夫婦神によってもたらされた大地に芽吹いた数多の命が営み拡がる。やがて様々な経緯を以て、夫婦神が国土で産むも神界に座していた太陽神が息子だかを統治者として派遣し、土着の統治者達が力差を察し国を譲った。人と神の境の曖昧な古代の逸話ではあるが、泥臭く血に塗れずに国を譲る流れは奇異ではないだろうか。しかし、古来より現代に至るまで転々と天皇の周囲を回る施政権を思うとかくありなんとも。
イソスタグラマー清少納言ややろう系紫式部、ツッタラー松尾芭蕉、春画に見るヘンタイみたいなもので古来より根っこの気質は変わらないということなのか。
「土着の統治者達も生まれ出ずる元を辿れば国生みつまりイザナギとイザナミに行き着くので、薄縁の分家が本家嫡男に家督を譲ったようなものですかね。」
「渡来の支配者でなくあくまで親類、同胞の宗家として頂に立ったということか。」
「おそらくは。そこから推定二千六百年以上の歴史を紡いでいます。諸説あろうとも一応は初代神武天皇より累々と男系直系による皇位の継承を続けているとされています。天皇は太陽神の息子の直系子孫すなわち現世におわす人神として扱われ、また自ら神々に世の平穏と人々の幸せを祈りしらすものとして在ることを子々孫々に課しているといわれていました。」
「…推定に、祈り。ずいぶんと曖昧なのね。」
「年数は神代の記録を鵜呑みできるかという点、血統においてはイフスエル王家のような特異な身体的特徴がないゆえに。近代で発達した血統鑑定方法では数代分しか遡れませんので…」
皇歴に望洋とするペリオミズに代わり、ジョッシュが問う。
「アルザ女史、その天皇と皇族は神に祈る対価に託宣でも得て権力を保持しているのか。それとも厳かに綺麗事をたれていれば崇められ敬虔な信徒に世話してもらえる教皇のようなものなのか?」
オカルトの絡んだ高貴さといえば、の典型例にアルハは目尻を下げた。
「いえ、数多の宗教組織とは違い、天皇は所謂『神の代弁者』ではありません。古代において朝廷という政府組織を築き施政をはじめはしましたが、やがては貴族に主導権を握られ、貴族は武家と対立をはじめ、貴族は武家に施政権を奪われ、武家は長らくも結局は外圧に慄いて天皇に主導権を返しますが、その際に天皇の側にいた者達により制限的な民主制に移行し貴武問わぬ権力者により組閣が行われ、黄色人種である自国の国際的地位の確立と他色人種の地位向上を図るも白人列強支配勢力との交戦を経て敗れ、法をこねくり回された結果現代においては一般国民が立候補者に票を投じ選び、当選者たちの推挙する代表が国政の主導を任されています。」
「て、天皇どこいっちゃったの…?」と、シルブルムが目をまわす。
「玉璽のような存在として担がれ続けてますね」
アルハの回答にウィルオストとジョッシュが感嘆し唸った。
「それは…すごいな。皇位を簒奪撤廃されなかったのか。国内にも国外にも…。」
「近隣国に己こそ王たらん、と玉座を簒奪しては暴力で血も文化も塗り替える国もありましたし。攻め込まれるたびに仰ぎ阿り娘を差し出して卑屈ながら強かに生き残りをかける国もありました。歴々の権力者がなぜ玉座を丸ごと抱き込む道を選び続けたのか…明瞭な解を私は持っていません。外国との敗戦においての皇室の残存は、当時の天皇陛下の人徳と国民が捧げていた信頼による奇跡とすれば美談ではありますがどうでしょうね。」
沈まぬ艦たる島国として緩衝地に定めこそすれ、王を残した。その理由はアルハにはわからない。王という芯を抜き去ることで、緩衝地として生かされながらも併合やむなしとさえ判断される隣国の体たらくまで堕ちるのを恐れたのだろうか。
勢いよく挙手したオルガイアがアルハとの出会い当時に聞いた逸話を喜々として紹介し、一同を驚かせる。ジョッシュは後世の創作された美談ではないかと代替できる経緯と結果を絞り出そうと頭を捻っていた。
「役割は…海外の王室と血を繋ぐことはなく、政権の承認儀式に担がれ、外交に駆り出され、内外で儀式を執り行って安寧と繁栄を祈りながら、伴侶を娶り子を成して、国民に親身な言葉を贈り、被災すれば励まし、過去の遺恨ある地に赴いて慰撫したりというものであったと記憶しています。」
あくまで陛下とその直系のみので、旧皇族の方などについてはよくわからない。規定なき上流階級の世界を形成してはいるのだろうが、役割としては神宮の祭主を皇族の女性が継承していたような気がする程度だ。
「あとは学者の面をお持ちの方が多いかなと。食糧難解消のために外国に贈った品種が陛下の名を冠して根付いていたり、国内食糧難解消のために外国から持ち込んだ品種が食料としてウケないばかりか既存の生態系を脅かす羽目になって悔やまれていたり…フフッ。笑い事じゃないんですけどね。
一番幼い親王殿下も興味のある分野があったらしく将来が楽しみでした。」
その言葉にシルブルムが喜色を浮かべ、卓上を掃いていたジョッシュの目線が持ち上がる。
王族が、学者を志していいのか。ジョッシュの零した言葉がシルブルムの縋るような視線がアルハに届く。アルハとしては、王位継承の有無に関わらず人生の道として学を選び、何かしらの分野で国益に寄与することがあればそれは素晴らしいことなのではないかと思うわけだが。
富や権力と血を繋ぎ、引き入れ縁を絡ませる。人一人の人生はそれだけではないだろう。血の持つ責務以外のことをそれぞれにやりたいように挑戦して何が悪いというのか。むしろお偉方を招致召喚できる身分をフル活用して邁進すればいい。
だってこんなに王子王女がいるのに、と。
「先々王には四人、先王には三人、陛下には五人の兄弟がいた。…死ぬんだよ、男は誰も残っちゃいない。唯一生き残ってたスーヴェ公爵も子もこさえず老いたばかりかついに括られただろ。俺たち今代の王子が四人、一度も欠けずに四人生きてるってのが王家の歴史的にかなり珍しい。今後どうなるか…正直不安しかない。
ウィルオストが公爵位を得はしたが、子を持つことが許されるのか陛下の御心を問うことだって俺たちには畏れ多いよ。その辺りを遠慮なく口にできる人間は一人しかいないからな。
今度ライオネルに聞いておいてくれ。俺たちを生かしておくのか、いつか処分するのか。」
絞りだされたジョッシュの言葉を、誰も否定しはしなかった。
これが、イフスエル王家の現状らしい。視線でアルハ自身の見解も求められているような気がして、アルハは軽率に自論を零す。
「そんな殺さなくても…と思いますけどね。確かに継承資格保持による継承争いやら派閥の代理戦争に担がれたりやら、王座簒奪を企まれる危険はあります。
しかし、今後諸処の事由により男児に恵まれなかったり、戦乱や疫病で不幸が続いて潰えてしまったりという懸念も見据えると、言い方は薄情ですが万一の代替として血統の保存の意義は重いのではないでしょうか。」
そもそも家族意識を以て和気藹々と支え合うのが理想ではあるが、それが単なる理想にすぎないことだと理解もできる。一般家庭であっても骨肉の争いがある中で、特に顕著であろう上流階級の世界など想像もつかない。しかし、世の変化により一夫多妻の廃止でもされれば青き血統は容易く先細る。
芳しくない表情の男衆が黙し、他人事なペリオミズが首を傾げた。
「そもそもなのだけれど、なぜ女性に王位は継承できないのかしら」
「彼の国では男性を矢面に立たせて女性が追従する形態をとるので、女性天皇が王配を迎えた時点で乗取りに等しい事態になると判断したのかもしれません。天皇を害し、皇室の女性を天皇に据えて娶れば実質天皇になれる…となれば、こうも永くは存続しなかったかと。」
どれだけ成り上ろうが、皇室に関わるには娘を娶らせて間接的に血を繋ぐしかない。義父として、次代の祖父として、どの程度の影響力を何年保持できるか…。男系堅持こそが、皇室が粛々と権威と血統を積み重ねてこれた一因を担うのは間違いないだろう。
近代になると男系でしか引き継げぬ遺伝子があると紐解かれたことも神秘的で。故に、日本においては万世一系男系継承に女性でなく女系を割り込ませることについてアルハは断固として否と説く。
勿論血統保持のみが王家の在り方ではないだろう。創作では勇者が姫を娶って王座に就く展開は王道であり、女王を戴くかの国については女系継承なのかどうかまでは知らないが、女王の息子が王太子と名乗っていたので次代は王を戴く予定だったのかなと思いつつアルハはペリオミズをまっすぐ見やる。
「他国に嫁がれるのですよね。父系母系関係なく男女に平等に王位継承権を得たとして、イフスエル内の継承者を謀殺するもしないもさておき、他国で生まれたペリオミズ殿下のお子様にこそ継承させよと、イフスエルの王血なのだからと、祖国簒奪の御旗に祭り上げられる可能性が欲しいですか?」
ペリオミズはアルハの視線を瞼で遮って、数拍噛みしめてから否を示した。想像したのか青ざめ、命の宿る予定の場所に手を添えていた。
そもそも男女同様にしてしまえば現男衆の悩みに他人面もできなくなるわけで。ついでにアルハにしてみれば王女といえどいたずらに他国と血を繋ぐのはどうかと思うのだ。古代に妃を娶った属国の跡地に住む他民族が皇室に我らの血が流れているのだと高らかに喚き散らすこともあるのだから。だからなんだと捨て置けばそれまでではあるが不快は拭えるものではない。
故国は島国で、世界の文明レベルが一定値を超えるまで外圧に怯えることがなかった。列島内をまとめることこそ国政であったように思う。国外と血を繋ぐ必要性がなかったが、たしか他国の王族と青き血の流れる者としての交流はきちんと行っていたのだ。大戦時では白人種の支配下にある植民地を開放し教育を施し独立を支援して回り、併合を求めた台湾には自立を促し、ほんとうにどうしようもない某半島のみ国防のために併合に踏み切るという過ちを犯した。
要するに島国として境界が明確であることからか、考え方が内か外かであり、猿と呼ばれた武将のように大陸に国土を求めることはごく稀だったような。侵略よりも防衛、覇より和による調和と安寧を図るのだ。餅は餅屋、よそはよそうちはうちの体だろうか。
故にアルハは大陸で地続きの境界をもつ国々のやり方がわからない。家の間取りに例えれば、一室が狭ければ窮屈、広すぎれば耐久性がなく、だからと柱や壁を設ければ死角が増えて結局別室に等しくなる。そこに領土拡大の利はあるだろうかと。
「頂に何を求めるかというところで、大抵は国権・絶対的権力・指導力であるのに対し、皇室が担ったのは民の拠り所たる精神性・神秘性なのだと思います。イフスエルはどうなのでしょうね」
イフスエル王国は地上に国境線を有するタイプだ。その性質をアルハは掴みきれていない。アルザ領でこそ隣国とたびたび小競り合いがあると聞いたが、ライオット曰く今のところ国家間の目立った係争に関与はしていないのだとか。
「王家が血をどれだけ重んじるのか、紫色さえ発現すれば構わないのか、最大権力と権威の在処を王統に固定できれば十分なのか。継承資格を変えるならば突き詰めざるを得ないような…」
「だとして限定しすぎると継承者の素質を計ることができなくなり愚王を生みかねない。がしかし、時々の判断で規定を転々と変えてしまえば王位が軽くなり過ぎる。条件が緩すぎれば収拾がつかなくなる…。となれば現在の前提条件と陛下による指名制は維持するのが無難か。」
「下手に手を付けて他国に倣ったと捉えられるのも、国内情勢を勘繰られるのも面倒そうだ。」
「聞いてみただけですもの。私は現状に不満などなくてよ!」
ペリオミズが噛みつくが、慣れているのだろう王子二名は「わかっている」の一言で流した。
「わたしは、オルガイア兄さまが王様でよいのです。わたしは、ウィルオスト兄さまのように臣としてがんばることはできないのでしょうか…。どうすれば信用を、許しをえられるのでしょう…」
「ゆるすよ!いっしょにがんばろ!」
泣き出しそうなシルブルムに、快活なオルガイアの返答は響かない。不安に揺れるままの視線はアルハにこそ注がれており、王子王女様方は第一王子陣営における意思決定の全てはオルガイアでなくライオットによって為されるのだと思い込んでいるようだった。無理もないが実際はそこまででもないようにアルハは感じている。不確かな実態を説くより、哀れな最年少者の不安を解こうとアルハは再び憶測でものをいう。
「おそらくですがライオット様は、特段能動的には誰をも排除しないと思います。オルガイア殿下がそれを望んでいないのは勿論、私の勝手な想像ですが、おそらくですよ?おそらくですが、オルガイア殿下の御代以降に興味が…無い。なんて可能性もなきにしもあらずといいますか。」
ライオットの目的は、オルガイアに己の世界を照らしてもらうこと。おそらくはそれだけのような気がするのだ。血を尊ばず、野心もなく、己の生きやすさを求めてオルガイアに寄り添い、守っている。
前提として、オルガイアへの敵意や害意を弾く絶対の自信がある。スカイラーラに関しては向けられる懸想を不快に思いこそすれオルガイアに対する害意があったわけではない故の放置だったのではないだろうか。それでもオルガイアへの害意への変化に対応し迎え撃った。
王子王女達がどれだけライオットに関わっているかわからない。がしかし、年上三人衆は、妙に納得したような遠い眼差しで母音を垂れ流した。
「女系である公爵令息が第一王子の操縦桿を握り、正当な男系の王血たる俺達全員の命さえ手中に収めているというのだから世知辛い。死が遠ざかろうとも世の中夢がないよなぁ。」
「せいぜい足掻きなさいなジョッシュ。私はより良い嫁ぎ先を選定してもらうためにも優雅におとなしくしておくから。ほほほ」
アルハの戯言に一定の安堵を得られたらしいジョッシュのぼやきに二名ほど内心肩を揺らす。
知らぬが仏なのか、世の中は割と表立たない夢物語にあふれているのだと彼が思い知る日は来るだろうかと生温く遠くを見つめた。それが良い夢なのか悪夢であるのかは当人の受け止め方次第だ。




