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暴く力 ※

※後半に少し暴力表現・性暴行表現が入ります。次ページは事後です。

 フォルクスが二重スパイになって、手に痣と歯形が出来て。セレネアに貰った手袋のおかげで通常通り業務をこなしながら天使が誘う学園へ主がために学院へとウロウロする日々を送っている。

 ローズはウィルオストをはじめとした幾人かのとりまきと青春を謳歌しているらしいが、その輪にライオットをも引っ張り込み侍らせようとしていた。アルハがライオットに付いているときは特にべたべたとくっついていて、ライオットもそれを受け入れている。ついでにギルスナッドも嫌そうなフォルクスを連れて交じり、乙女ゲームのパッケージですとばかりに様々な面々が彼女を彩っていた。


「この世界は私をヒロインとして選択したの。悪役令嬢はせいぜい隅でおびえているのね」


 二人きりの際に言われた鋭利な言葉が頬を掠めるも架空の傷は滲む血もなく、アルハはただ無感情に目を伏せてライオットに付き従うのみだ。

 痛みもない。今世の世を世界と呼びこそすれ、アルハにとって世界とは自分自身を取り巻くすべて。ローズの世界では脇役端役悪役であろうアルハもアルハの世界ではアルハという主人公でしかない。攻略対象者とやらがどれだけいるのか知らないが、見目麗しい少年達を侍らせてご満悦されてもコメントに困るというもの。こちとら恋フラなるゲームを知らずに今世をなんとか渡り生きている日陰者の犯罪一家の娘なのだから。


「ライオットは貴女の推しだった?悔しい?せっかく記憶があっても知識がないんじゃね」

「『チガウヨ』」

「なんかすごく聞き覚えあるその声!なんだっけ?昔のテレビ番組…貴女実は結構オバサンなんじゃ」

「『カンガエチュウ、カンガエチュウ』」

「なにその顔、オバサン呼ばわりされて怒ってんの?」

「『チガウヨ』」

「ねえ、そのネタなんなのか気になって仕方ないんだけど。教えてよなんかモヤモヤするじゃない」

「…」

「むかつくこの陰険ババア…」


 某教育委員会のマスコットモノマネで精神年齢にあたりをつけられつつも、おちょくることには成功する。周囲の関心の切れ目を見計らって人知れず口撃できるのも、取り巻きを取り巻かせておく対人能力も、羨ましくはないが素直にすごい。ローズの前世はギャルかリア充か。はたまた主人公はっちゃけか。

 アルハはライオットと恩義と忠誠で一線を越える仲ではあるが決して恋人などではないので、ライオットがローズの形成した輪に入っていてもなんてことはない。ただ、勝ち誇ったローズの的外れな上から目線がむかつくだけだ。


「ウィルオスト様、学院主催の夜会が一ヶ月後に迫っていますわ」

「ああそうだな。ノル、エスコートさせてくれるね?」

「えー!殿下たまには俺らにもゆずってくださいよー」

「殿下はどうせノルと結婚するんです。今ぐらいは僕達に思い出をくださいませんか」

「断る!」


 やいのやいのとローズを奪い合う中で、ローズがそっとライオットに上目遣いで囁く。エスコートを提案しているのだろうか。蠱惑的な可憐さでライオットを絡めとろうとするローズにライオットは受け入れるかのような甘い笑みを浮かべた。


「今度の夜会は日々私のために働いてくれているアルハをエスコートするつもりだ。ウィルオストの想い人に横恋慕などしないよ」

「ライオット!おまえはいいやつだ!おまえたちも見習え!」

「「ぶーぶー」」

「ふーん。フォル、俺らもでようぜ!」

「嫌ですギル様!」


 アルハの脳内で黒いお兄さんが予想外デースと呆気に取られている。アルハも同じ心境だ。アルハと同じ顔をしているローズの侍女アリスが主人の仇とばかりにアルハの踵を小突いたが、侍女であるアルハの靴は細いヒールではないので痛くもかゆくもない。


「公爵令息が男爵令嬢をエスコートするなんて前代未聞ですよライオネル様。ローズ様なら身分も釣り合いますのに」

「アリス嬢、お気遣いありがとう。私の家格は己の侍女を労ったところで揺るぎはしないので心配は無用だ。先ほど言ったように私はウィルオストの恋路は妨げる気がない」


 キラキラな微笑に穏やかな受け答えなのになぜだろう。アルハにはライオットの言葉から副音声が聞こえた。余計な口出しすんな黙ってろ同じこと言わすな、と。アリスは聞き取れないのか取り巻きとの会話に忙しいローズに代わってライオットにすり寄る。


「で、では私を誘っては下さいませんか?」


 ちょっと何言ってるかわかんないです。と目を点にするアルハに習うようにライオットは表情を崩すことなく黙殺した。


「…会わせたい方がいるのです。きっとライオネル様も心動かされる清廉で素敵な方です」


 それはノルウェット・ローズではなく?と首を傾げるアルハとは違い、ライオットは興味深そうに片眉を上げる。


「私の侍女は人見知りが激しい。エスコートは主の義務と思っているので譲れないが、その方はぜひ夜会で紹介してほしい。それでいいかな?」

「ありがとうございます。お互いにとって必ずや運命の出会いとなりますわ!」

「…運命、ね」


 白けた視線に気付かず、アリスはローズの会話に交じっていく。入れ替わるようにフォルクスが逃げてきた。嫌悪感を丸出しにして横目で逆ハーレムを睨みつけている。


「よくあの輪に加わろうと思いましたね、ライオット様。わざわざオレを繋ぎに使わなくてもよかったでしょうに。あぁギル様が汚れる…あいつ魅了のオーラでも出てんの?まじいみわかんねぇ。上級貴族男児ともあろうものが揃いもそろって腑抜けてやがって」

「諸々理由あってのことだ。そして、疑似餌としてウネウネした甲斐はあった。夜会で釣り上げれば色々とわかることもあるだろう。ギルスナッドはアルハで釣れば戻ってくる」


 疑似餌でウネウネ。ライオットには似合わない文章をつい鸚鵡返ししてしまうと、ライオットは懐かしいだろう?と囁いて目元を緩めた。公爵の記憶力に感嘆しつつも恥ずかしさに目を閉じたアルハが目を開けると、ギルスナッドがいつの間にかこちらに合流している。


「アルハ衣装持ってっか?俺が贈ってやろうか!あんときどえらい恰好してたしな!」

「いやいやいやいや申し訳ないですから大丈夫です隅っこでどえらい恰好しときますので…」

「私の侍女としてあの格好はさせるつもりはないし、アレはもうない捨てた」

「ひぇっ」

「おまどんだけヤバい恰好してたんだよ…ギル様が貶すとかよっぽどだぞ…」


 桃色フリフリドレスにお古の貴金属ですが何か。灰紫の君と葡萄の君は怪しげな笑みを浮かべて密談しているし、夜会にはいい思い出はなし。勘弁してほしいが、意図ある措置だということは察しているアルハに拒否権はなかった。

 後日採寸に採寸を重ねてぐったりするアルハを妖しい笑みで見やるギルスナッド、ライオット、セレネア。フォルクスと共に大きな不安を抱きながら立ち振る舞いの講義を見繕った。


 講義ではフォルクスのフォローを受けながらダンスや行儀を徹底的に仕込まれる一方、陰口を叩かれ、足を引っかけられ、呼び出され、難癖をつけられと、ザ・いじめられっこ講習かと。しまいには資料室のような場所に閉じ込められている。

 困ったな、まだライオット様の部屋の掃除が残っているのに。そう思いながらアルハは溜息をついた。


「ねぇ、アンタ。いつになったらキッツのところにいくの?」


 物陰から声をかけてきたのはローズの侍女のアリスだった。そこでようやく閉じ込められたというよりはアリスと二人きりにされたのだと思い至る。


「私はライオット様に助けられ救われ、忠義を誓った身です。キッツ様のところに身を寄せる予定はいまのところありませんが」

「目障りなのよ!アンタのせいでシナリオが崩れていく!こっちが穏便に忠告しているうちに身を引きな!」

「シナリオって恋フラ?でしたっけ。それ私が薬漬あははうふふ幼女であることが前提なんじゃないですか?破綻してません?」

「…アルハ・キッツはスカイラーラ王女編できっちり悪役をこなすんだからまるっきり幼女のままじゃないんでしょーよ。そうよ、ずれてるのよ。アンタもう悪役の方のアルハ・キッツなのね」

「私は残念ながらアルハ・リューンです。ローズ嬢の戯言から卒業されてはいかがですか」

「お嬢様は行動で記憶が真実だと証明されているわ。ウィルオスト殿下はじめ側近候補達もオトしているし、疑う余地なんてない。アンタが、アンタだけがイレギュラーなのよ」


 記憶持ってる時点でローズ嬢もイレギュラーちゃうんかい。と思いつつ、アルハは表情を歪めながらもアリスの話に耳を傾ける。恋フラなるゲームはアルハVSノルウェット・ローズの数年後、スカイラーラ王女編がはじまるのだとか。前半戦の勝者がラスボス、敗者が捨て駒の刺客。そう聞いていて疑問が湧く。


「王女様は女三主役のひとりだというなら今は悪役ってことですか」

「アンタねぇ!…あの王女様はそういうんじゃないわ。お嬢様やアンタみたいにゲームとやらの記憶はないもの」

「左様ですか」


 私もゲームの記憶なんぞありませんがね。と心中毒づきながら、なにか情報が引き出せないものか頭を捻るも妙案はなく。アルハは三流間諜フォルクスを見習って素直に聞いてみることにした。


「ローズ様は他にどんな記憶を話されているのですか?恋フラとかいうゲームだけです?」

「ゲームだけ?どういうこと?まだほかに妙な知識を持っているというの!?」


 一層険しくなったアリスの形相と予想外の返答にアルハは後ずさる。ローズとアリスは親密なのだと思っていたが、実現可能な予知じみたゲームの話のみで前世云々はアルハと同じく荒唐無稽だと口を閉じたままなのか。とにかくいらぬ藪をつついたのは確かだった。

 どういうことだと詰め寄られても口を噤んで一歩ずつ後ろに逃げることしかできない。ライオットにすら話していない前世云々を敵でしかないアリスに話す理由はない。壁際まで追い詰められ、挙句壁ドンすらされるも、真横に引き結んだ口元が開くことはないとアリスは悟ったようで一転してアルハから距離を取った。マンガみたいな指パッチンを合図にアリスの向こうにある扉から入ってきた数人の男達に、本当にマンガみたいな展開だなと現実逃避を自覚しながらアルハは目を閉じて私刑宣告を聞いた。


「言わないなら言わせるまでよ。アンタたち、痛めつけなさい!」


 ___どのくらい経っただろうか。

 苦痛に耐える時間というのは長く感じるものなので実際はまだそんなに経過していないかもしれない。諦めてくれないかなぁ、無理だろうなぁ、いっそ殺されるかもなぁと痛む身体をできるだけ庇いながら呻き声だけを吐き出し続けていた。

 髪の毛を鷲掴みに持ち上げられ、再度問われるも目を閉じたまま無反応で返せば壁に投げつけられて腹に爪先がめり込んでくる。血反吐を吐くには至っていないあたり多少は手加減されているのだろう。吐き出した胃液が不味い。

 こんな状態で付け焼刃の護身術など発動するはずもなく、掴まれて、問われて、放られて、一通り殴る蹴るの暴行を受ける。この繰り返しだ。顔への攻撃が初撃の一発だけなのは一応令嬢扱いされているということなのだろうか。ありがたいけれどそれはそれで悔しいのはなぜなのか。


「らちが明かないわね。…そうだ。アンタたちソレ、犯しちゃっていいよ」

「まじ?それはさすがにヤバくね?」

「さすがにこんな汚いの、勃つか?」

「オレ全然イケる」


 あーお決まりの流れですね。と、やいのやいの喚く男たちの声を聴きながら目を開ける。ライオットやギルスナッドに比べてどことなくなよっちい侍従の男達。まぁ、なよっちくても男は男。しかも複数なので、アルハには寸分も勝てる気がしないのだが。


「なぁ、こいつ処女かなぁ!?」


 その言葉に意識のすべてを持っていかれた。

 フラッシュバックするリューン男爵の顔、幾夜も苛んだ悪夢にガタガタと身が震える。嫌だ嫌だ嫌だと身も心も暴れまわり、ガチガチと歯が鳴った。組み敷いてくる男たちに初めて唸りながら力の限り抵抗するアルハを見てアリスはにんまりと笑う。


「嫌なんだ。そりゃ女の子だもんねぇ?深窓のお貴族様のご令嬢ですものねぇ?大事に大事に守ってきたテイソー、奪われたくないでしょー?…話せよ!何を知ってる!」


 カチャカチャとベルトを外す音と一緒に飛び込んできたアリスの嘲りを、悪夢に塗れた脳内で幾度も幾度も反芻して、アルハは徐々に落ち着きを取り戻した。

 テイソー、ていそう、貞操。そうだ。私は処女じゃない。私のすべては彼のものになったじゃないかと。思い出せば過去の悪夢は破瓜の夜へと、そしてここ最近のライオットとの情事にいともたやすくすり替わった。そう、もう初物でもなんでもないオトナノオンナである。中古品である。悪漢との一発二発ごとき、あの至上のイケメンとの極上の記憶で上書けないわけなくないか。

 異常事態の最中で妙な開き直りをはじめたアルハは周囲を見やる。下衆な女が一人と下衆な男が三人。何ができるかと考え、男達が自ら丸腰になっていっているのが目に入った。アルハには食いちぎることさえかなわないズボンを脱ぎ下半身だけでも柔らかな皮膚をさらけだす。やや上向きの股間の凶器は最大の弱点でもあり、これはチャンスなのではなかろうかとアルハは抵抗をやめて四肢から力を抜いた。


「あら、観念しちゃったの?図太てぇな。ライオット様のため?口止めされてんだ?アンタのものにはならない男のために頑張っちゃうんだ。アッハッハ健気ー!アホだな。いずれアンタと私は同じ主に仕えるかもしれないのに。あー、あんた悪役で断罪されて退場すんだっけ?それを妙な知識でやりすごそうっての?なぁ、無駄だから!吐けよ!なにを知ってんの!何の記憶があるの!」

「そういえば私、生娘でも何でもないし。どうせなら楽しもう?ほらそこの人、キスしよ」


 アリスの言葉を無視して、精一杯の流し目で誘惑を試みると跨っている男がごくりと喉を鳴らす。楽しむもくそもあるか口んなか胃酸で苦くて酸っぱいんじゃコノヤローと内側で木霊する悪態を、自称妖艶な微笑みで包み隠して拘束の緩んだ足を緩く擦り合わせてみる。同時に手の拘束具合の緩みも確認。これは性的な意味ではなく一発やれるかもしれない。アルハはフォルクスに微妙にでかいと称された胸を揺らすように軽く身をよじる。すると跨っている男が胸に触れ、距離が近くなった。顎を持ち上げてもう一度キスを誘うと鼻息荒く顔を近付けてきた。

 今だ!

 脱力した腕に瞬時渾身の力を込めて両目を薙ぐように振り抜いた。殴って昏倒させることができない女性による悪漢撃退には目潰しも有効で、それは何も指を目玉に突き刺す必要はなく指先が眼球を掠める程度でも十分効果を発揮する。

 ギャア、と汚い悲鳴を上げて唇を突き出していた男が視界から消えた。すぐさま呆気にとられる男の内の一人の脛に噛みつくもすぐに振りほどかれて棚に蹴り飛ばされる。痛みに呻きながらも顔の筋肉を叱咤して自称妖艶な表情を形作った。


「私まだ口でシてあげたことないんだけど、やったげよっか?」


 蹴り飛ばした男と目を合わせたままガチッと歯を鳴らす。面白いほど青く染まった顔に少しだけ溜飲が下がって激痛の中ほんの少し笑みがこぼれた。

 そんなアルハを嘲るように棚から小瓶が落ちてきて側頭部にぶつかり、血が垂れていく。転がった小瓶からじわりと液体が絨毯に染みる様子に、破瓜の翌日のシーツが思い浮かんだ。

 私はまだ、なんの恩も返せていない。なのに、もう、身体に力が入らない。


「はんっ、さすがにもう動けねぇだろ。俺だけでもヤらせてもらうぜ!こちとら女買う金もねぇ貧乏小間使いだからな!使える穴があるなら突っ込まねえと!」

「お、オレもこの歯形代くらいはもらわねぇと割に合わなねーわ。オレ、二発目で」

「いいぜ!」


 仰向けに転がされて胸を晒され、お仕着せの裾を捲りあげられる。小瓶を掴もうと這った腕も縫い留められてしまった。キスで舌でも入れてくれたら食いちぎってやるのに、イチモツを口に突っ込んできたら噛み切ってやるのに。揉まれる胸の感触を気持ち悪いと拒否するか、股を這う手をライオットとの記憶に重ねて受け入れるか。嫌悪感に苛まれながらどうにもならないことばかり考えている。

 胸に舌が這い、穴に指を突っ込まれ、とうとうアルハの喉からひきつった悲鳴が漏れた瞬間、それは掻き消された。


「ぎゃああああああ!!」


 衝撃のあまり膝立ちになった男の股間の凶器が凶器になっている。何をいっているのかわからないと思うがという有名なくだりを脳内再生しながらアルハは期待した。


「私のものに触るな」


 望んだ声にほろりと涙が流れた。

 ライオットはアルハを四つん這いに組み敷いていた男のイチモツと合体している剣を踏み抜き、発狂するその男を横に蹴り飛ばす。バチリとかち合ったライオットの瞳はどこまでも暗く深い闇を孕んでいたが、アルハは自分の有様も忘れて安堵から眉尻を下げた。

 ライオット様。音にならなかったその声を拾ったライオットは動けず、その背に一人の女が寄り添った。


「お見事でございますライオット様。しかし、私に焚きつけた悪漢に自分が襲われるなんて哀れですわ…」


 ライオットの肩越しににんまりと笑うアリス。口を割らないアルハに見切りをつけて罪をかぶせ、ライオットに取り入ったのだろう。アルハは悟りつつもどうする気力もなかった。

 半ば朦朧とした意識の端で別の男をボコボコにしているギルスナッドと、もう一人の男を縛っているコンラードが見え薄ぼんやりと状況を把握していく。


「アルハ!だっ…大丈夫じゃねえな!ココココンラード!どう言えばいい!?ライは突っ立ってんな!」


 ばさりと被せられたギルスナッドの上着が温かい。わたわたするギルスナッドの脇からコンラードがスナック菓子のようなものをアルハの顔の上で砕くと、淡い煌めきと共に眠気に包まれる。


「よく頑張ったね。おやすみ」


 瞼を掌が覆って、視界のギルスナッドとコンラードが闇に消え、アルハの意識もまた色を失った。

 かくりと力の抜けた様子に掌を外し、コンラードは額の汗をぬぐう。ギルスナッドもアルハの眠りを確認してほっと一息ついた。


「ね、寝たか。どうする?なあ、ライオット!」

「…私が処置をする。このまま連れて帰る」

「俺も行く。コンラード!後は任せた!」

「はいよ。任された」


 アルハを抱きかかえようとしたギルスナッドを制し、ライオットが横抱きに抱き上げる。コンラードは事後処理のため通信機器を使って人員を配しながら、アルハを連れ出していく二人を見送った。しかし、その後に続こうとしたアリスを朗らかな口調で呼び止める。二人との距離を測って言葉の矢を射かけた。


「アルハ・リューンは孤立している。それを知らない者はいないよ?」


 試すような勢いのない矢をアリスは平然と躱す。


「だから何?力なき高の知れた伯爵位は下手に騒がず風見鶏に徹しているのが身のためよ」


 軽やかに出ていったアリスの背中をコンラードは憤怒の表情で睨みつけた。いったん視界を切り、資料室に残された下衆三匹を脳内人名鑑と照らし合わせるとやはりアリスと関わりのある輩。友人を傷つけた犯人は明らかなのに。廊下を駆けてくる配下と衛兵の足音に耳を傾けながら、やりきれなさを拳にのせて壁を殴ることしかできなかった。

お久しぶりですみません。

190220.990.2680

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