僕、悩みました
「ゴロゴロー!」
「決まったぁ!カオルちゃんのピカ獣の放った『君の瞳は一億ボルト』がリザー丼を直撃!一気に勝負を着けました!」
僕の背後にある巨大モニターには、僕の操る雷のモンスターピカ獣が勝利のポーズをきめています。対戦相手の女優さんの背後のモニターでは、ドラゴンタイプのリザー丼が倒れ伏していました。
今日の僕のお仕事は、テレビ闘将のナゲモン倶楽部という番組の生放送への出演です。
これは南天堂というゲーム会社の世界的大ヒットゲーム「ナゲットモンスター」の情報を紹介したり、強いプレイヤーや有名人が対戦するのを生中継したりする番組なのです。
「楽しかった時間も、終わりとなりました。来週もナゲモン倶楽部で会いましょう」
司会を務める声優さんの横で、対戦した女優さんと笑顔で手を振りました。
「放送終了です。お疲れ様でした」
スタッフの人達が慌ただしくセットを分解し運んで行く中、プロデューサーさんが笑顔で労ってくれました。
「少々急だったから、カオルちゃんが出演してくれたのは嬉しい誤算だったよ」
「今ならスケジュールに余裕かありますので。でも、常に応じられるとは限りませんので」
背後に現れた長門さんがプロデューサーさんに釘を刺します。後ろから両腕を回されて抱き締められ、長門さんの胸部装甲が僕の背中に押し付けられます。
「業界内部では、もう知れ渡ってますよ。イッテレの編成局長には感謝して方がいいかな?」
「私も聞いたわ。武蔵芸能のタレントを締め出したって、本当にお馬鹿よね」
あの件は、他の事務所のタレントの人達の間でも広まっているそうです。
武蔵芸能のタレントが締め出された皺寄せを、他の事務所がくっているのです。知らない筈はないですし、皺寄せで無茶を言われれば怒りも生まれます。
「武蔵以外のタレントと、イッテレ社員は編成局長に対して怒り心頭だな。うちも含めてイッテレ以外の局は大感謝だが」
無理難題を吹っ掛けられた他社のタレントさん達は、怒りの矛先を全て編成局長へと向けているようです。
僕達に何の非もない事と、自分達が僕達の立場ならば同じ対応をしただろうというのがその理由だそうです。
テレビ局の人達が感謝しているのは、武蔵芸能のタレントが出演を増やしたから。あの局長、確実に自分の首を絞めています。
「おまけにこの間、とんでもない要請をしてきたぞ。全ての局に、武蔵のタレントを使うなとさ。そんなの聞く奴居るはずないのになぁ」
プロデューサーさんは大声で笑っていますが、僕は到底笑えません。一つ違えば、武蔵芸能の所属する先輩方の仕事が根刮ぎ無くなっていたかもしれないのです。
家に帰る車の中で、僕は迷っていました。お父さんとお母さんの力を借りれば、編成局長に鉄槌を下す事が出来るでしょう。でも、両親の威を借りる事が正しいのでしょうか。結局、家に帰っても結論は出ないまま悶々としていました。
「お姉ちゃん、おかえりな・・・」
リビングに入った僕を見た穂香は、言葉の途中で僕を抱き締め無言で頭を撫でました。
「ただいま。穂香、どうしたの?」
「憂い顔のお姉ちゃんがセクシー過ぎる。家にお持ち帰りしてもいいわよね」
「穂香、落ち着きなさい。ここが家でしょうに」
暴走しそうな穂香を宥めようと努力しましたが、心の琴線を弾かれたらしい穂香は両親が帰るまで僕を放しませんでした。
「・・・それで、薫は何を悩んでいた?」
帰ってきた両親に、悩みがあることと悩んでいる顔を見た穂香が暴走して事を話しました。
そうなれば当然、お父さんは僕の悩みを聞こうとします。穂香に毒気を抜かれてどうでも良くなった僕は、プロデューサーさんに聞いた事を話しました。
「それで、薫は編成局長に報復したいのだな?」
「うん。だけど、何の力もない僕には編成局長に仕返しする方法がないから。お父さんとお母さんに頼めば、十分過ぎるほどやり返せるのは分かってるけど・・・」
お父さんとお母さんならば、十分どころか過剰な程に報復するでしょう。それも僕が躊躇う理由の一つなのです。
「薫、お前はお前が持つ力に気付いていない」
「そうよ。薫ちゃんには十分に戦う力があるのよ」
僕に戦う力などあるのでしょうか。タレントとなりそこそこ人気はありますが、テレビ局の編成局長に立ち向かう事はまず無理でしょう。
「お姉ちゃん、いつの間にそんな力を手にいれたの?右腕に伝説の悪魔が封印されていたり、左目の邪眼の魔力が抑えきれなくなったりしてるの?」
「穂香、お前は僕を何だと思っているんだ?」
僕は某小説サイトでハイファンタジーやローファンタジーに分類される小説の主人公ではないぞ。
「「「巨乳ロリータ男の娘だよね」」」
間違えてはいない。間違えてはいないのだけど、それは言わないでほしかった。