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閑話 馬鹿局長の影響は

 ここは、とあるテレビ局の編成局長室。今、この部屋の主である編成局長とその部下が豪華な一枚板を使ったデスクを挟んで対面していた。


「き、局長、これ冗談ですよね?」


「ああん?お前、俺の命令が冗談だと?」


 局長から渡された書類を読んだ部下は、そのあまりな内容に思わず思った事をそのまま口に出してしまった。それを聞いた局長は、脅すような低い声で聞き返した。


「相次いだ不祥事やスキャンダルで、安心して使えるタレントが少ない状況なのですよ?そんな時に武蔵芸能のタレントを締め出すなんて、正気の沙汰ではありません!」


 開き直った部下は、思うままに発言する事を選択したようだ。その発言内容は正論ではあるのだが、局長の命令を真っ向から否定するものだった為局長の怒りを買った。


「下っ端のお前には判らぬ情報を精査した上での、高度な判断だ。四の五の言わずに、さっさと公布してこい。それかお前の最後の仕事だ!」


 物は言い様である。確かに、この判断は部下の知らない情報を基に下された。しかし、その情報が一方的に出演を命令して、それをやんわりと断られた腹いせだという低俗な物なのだが。


 降格、左遷されようとも構わない。むしろ、左遷されればこの局長と顔を合わさなくとも済む。そう思った部下は、通達の紙を持って局長室から退室した。


「上辺だけに囚われおって。上に立つ者は、あらゆる情報を総合的に判断して高度な決断せねばならぬのだ。短絡的な判断しか出来ぬ小者かグダグダ抜かすな!」


 部下が退室し、閉まった扉に怒鳴る局長。このテレビ局では、腹いせを高度な決断と呼ぶらしい。


 一方局長室を退室した部下は、送り状を添えて各部署に通達書をFAXで送っていた。送り状には、反対する者は降格あるいは左遷されるという事もしっかりと書かれていた。


 そして、それの正しさは翌日に公示された季節外れの人事異動にて証明される。他でもないFAXを送った本人が、編成局から地方局の制作局に移動となったのだ。


 逆らえばどうなるかを、哀れな生け贄が証明した。そのため、その命令に逆らう者は皆無であった。もっとも、その生け贄本人は我儘編成局長から離れる事が出来て清々していたのだが、それは余人が知る所ではなかった。


 仕事を干された武蔵芸能のタレント達は、余りそれを気にしていなかった。超多忙状態から解放されて喜んだ者も居たのだが、スケジュールが空いた事を知った他局から仕事が入りすぐに殺人的スケジュールに戻ってしまったそうな。


 翻って、武蔵芸能を締め出した現場では。出演が予定されていたタレントが急遽使えなくなり、慌てて他の事務所にタレントの出演を打診した。

 しかし各芸能事務所に所属するタレントは、既に目が回る程の忙しさである。そこにいきなり出演を依頼されようとも、他の仕事に穴を開けてまで出る者など少なかった。


 武蔵芸能への仕打ちは、他の芸能事務所にも伝わっていた。他局に迷惑かけてまで一本テレビを優先してもすぐに一方的にキャンセルされるかもしれないのだ。

 そうなれば迷惑をかけた他局に鞍替えすることも出来ず、芸能人としては半ば致命的な状況となってしまいかねない。


 結果、出演依頼に応じるのは仕事がほぼない新人か、一本テレビに義理があり断りきれない者だけとなった。


 クイズにしても、トークにしても、歌にしても。経験が浅いタレントを多用した番組を面白い物にするのは難しい。司会や他の出演者が上手く盛り上げる事が出きれぱ良いが、それを行える者は業界に多くは居なかった。


 当然ながら番組の質は低下し、視聴率は目に見えて落ちていく。しかも、収録されていた番組でも武蔵芸能の者が出ている物は差し替えろという無茶な命令が出ていた為、使えなくなった分を急ぎで収録する必要がある。

 出演者の質の低下に加え、時間的な制約を課された現場のモチベーションは下がる一方である。それで面白い番組が出来たのならば、正にそれは奇跡だと断言出来るレベルであった。


 そんな中元凶である編成局長は、(編成局長の価値観では)使えなかった部下の代わりに取り立てた部下に命令を下していた。


「カオルとかいう生意気な奴が来たら、この部屋に連れてこい。俺は寛大だから、愚かな行為を悔いて謝罪する機会を与えてやろう」


「わかりました。カオルというタレントが来たら、局長室にお通しします」


 自分が武蔵芸能のタレントを締め出したくせの、そこの所属タレントであるカオルが来る筈が無いだろうと心の中で毒づく新たな部下。

 しかし、彼はまだそれを表情や言葉に出さない程度の忍耐力が残っていた為編成局長は従順に見える部下にご満悦だった。


 それから一日経っても、二日経っても、一週間経っても、カオルは一本テレビに姿を現さなかった。仕事がないのだから、それは当然である。


 しかし、そんな当然の事が判らぬ馬鹿な男も存在した。


「何故だ、何故カオルとやらは俺に謝罪をしに来ない!こうなったら、他局にも根回しをして・・・」


 一本テレビの不幸は、まだまだ続くようである。




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