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僕、強要されました

 夏らしいと言えば夏らしい体験をした慰安旅行から一週間。長門さんと氷川神社でお祓いを受け、仕事を再開しました。


「次はイッテレでバラエティーの収録よ。タクシーの中で食事出来るから」


 長門さんに手を引かれ、不死てれびの玄関前に呼ばれていたタクシーに飛び乗ります。タクシーには武蔵芸能の女子社員さんが乗っていてました。


「一本テレビに大至急!」


 社員さんが行き先を告げると、タクシーは弾かれたように走り出しました。


「長門さん、カオルさん、お疲れ様です。お弁当をどうぞ」


 一部のお笑い芸人の人が社会的にあまり宜しくない企業のパーティーでお仕事をしていた余波を受け、各テレビ局では出演者が足りなくなる羽目に陥りました。

 そのため、スキャンダルと縁が薄いと思われるタレントは出演依頼が増えて酷使されるという状況にあります。


 芸歴が浅く年齢も低い僕は、当然ながらスキャンダルになりそうな事とは無関係です。なので、安全牌と判断され目が回るような忙しさとなりました。


 この日も何本かの収録をこなし、最後に一本テレビで法律関係のバラエティー番組の出演しました。

 忙しさとは言っても、僕は義務教育を終えたばかりの未成年です。深夜までお仕事とはなりません。武蔵社長も長門さんも、その辺はキッチリと調整してくれています。


 しかし、世の中自分だけが可愛く、そのためならば法も道理もねじ曲げる人も居るのです。僕を苛めていたあいつらのように。


 収録を恙無く終えた僕は、事務所に戻るため長門さんとテレビ局の廊下を歩いていました。そこにスーツを着たかなり太った男性が立ち塞がったのです。


「そこのお前、カオルとかいったか。順番待ちが出来る法律相談所のレギュラーにしてやる。有り難く思えよ」


「仕事の契約の話でしたら、事務所を通してお願いします」


 順番待ちが出来る法律相談所とは、今日僕がゲスト出演したバラエティー番組です。

 ゲストからレギュラーになるというのは悪い話ではありませんが、簡単に了承は出来ません。

 現状僕のスケジュールは埋まっているため、それを受けるならばキャンセルしなければならない仕事もあるのです。


「おいおい、天下のイッテレで編成局長様の命令を断るとか言わないよな?お前の所属事務所のタレント、全員出禁にしてやろうか?」


 いかにもな上から目線の言葉に僕と長門さんは頭を抱えました。一昔ならいざ知らず、現状の芸能界でテレビ局が一つの事務所のタレントを閉め出して番組をまともに作成出来るでしょうか。

 恐らくこの人は、命令を下せば下は無条件で従うと信じて疑わないのでしょう。番組を作成する現場や下請けの苦労など、知りもしないのでしょうね。


「契約に関する判断は、事務所で行います。レギュラーのお話は、事務所にお願いします」


 相手をする価値無しと判断したのか、長門さんは同じ内容の断り文句を告げると僕の腕を引き歩き出しました。


「貴様、タレント風情がいい気になるなよ!這いつくばって許しを乞いに来るようにしてやるからな!」


 子供のように地団駄踏んで悔しがる編成局長。通り掛かってそれを見てしまった人達は、視線を逸らして足早にその場から逃げていきます。


「長門さん、僕は兎も角他の人達に迷惑か掛かりませんか?」


「あら、私は間違えた事は言っていないわ。仕事の契約なんて口約束でするものではないし、事務所を通すように案内しただけだもの」


 確かに、長門さんの言うことは正論です。しかし、正論が必ず通じるならば僕は今こんな姿になっていなかったでしょう。


「それにね、例え閉め出されてもあいつの首を絞めるだけよ。皆労働時間が長すぎるから、イッテレの仕事が一時無くなる位で丁度良いわよ」


 事務所に帰り、武蔵社長にイッテレでの出来事を報告しました。その際に長門さんがレコーダーを取り出して、録音していて会話の一部始終を再生したのには驚きました。


「こんな事もあろうかと、と言う奴よ。いつトラブルが起きるか分からないから、常に録音出来るようにしたのよ」


 これで編成局長が言い掛かりをつけてきても、会話の証拠付きで反論出来ます。少なくとも法律的にこちらが負ける事は無いと思われます。


「イッテレからの閉め出し程度は問題ないが、バカな真似をしなければいいがな」


 武蔵社長の憂いは、自分の会社を心配してではありません。あれだけスキャンダルが続いたテレビ業界で、また新たにスキャンダルが発生すれば大きなダメージになると危惧しているのです。


 しかしそんな武蔵社長の願いは叶わず、翌日の昼には一本テレビより武蔵芸能所属のタレントの契約を破棄するとの通達か届いたのでした。



 

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