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僕、気付いてしまいました

軽いホラー要素が入ります。


苦手な方はスルーする事をお薦めします。

 入浴で疲れはててしまいましたが、今日はまだ楽しみがあります。夕食は皆で集まっての宴会なのです。

 温泉地のホテルで、浴衣を着てワイワイと大勢で騒ぐ宴会。引きこもりだって僕には、夢のまた夢という憧れのイベントです。

 掲示板を見ると、社員旅行の宴会は地獄だという書き込みもありますが、それは贅沢な悩みというものだと思うのです。


 長門さんと店長さんが迎えに来たので、一緒に宴会場に向かいます。二人は僕の両脇に座り、お酒を注ごうとする人から守ってくれる事になっています。

 僕は未成年なのだから、飲酒させるなんてスキャンダルを起こすとは思えないと始めは断りました。しかし、酔っぱらいに正常な思考を求める方が間違いだと言われると、反論出来なくなりました。


「長門さん、いつもカオルちゃんの側にいるのだから今日は譲ってくれないかしら?」


 宴席では監督さん以外は座る席が決まっていないとのことです。なので僕の隣をキープしようと女性陣が熾烈な場所取りを繰り広げていましたが、長門さんと店長さんは大義名分を掲げ僕の両隣を渡しませんでした。


「ちょっ、なんでそこに固まるんだよ。もう少しバラけたらどうだ?」


 僕の正面やその近くに陣取った女性陣に、男性陣が文句を付けましたが凍るような視線に撃退され退散していきました。


「まだ撮影は続きますが、今日は中休みということで楽しんで下さい。では乾杯!」


 監督さんの音頭で宴会が始まりました。山の中の温泉ホテルですが、海の幸も新鮮でついつい手が出てしまいます。


「料理もお酒も美味しいわね」


「これで眺めが良ければ完璧なのにね」


 宴会場の大きな窓から見えるのは、どこぞの観光会社の大型バスでした。会場が駐車場に面しているので、折角の大きな窓から見えるのは並んだバスの後ろだけでした。


「あっ、あのヌイグルミ可愛い」


「あっ、本当。大きいわねぇ」


 並んだバスの一台に、大きな熊のヌイグルミが座っていました。背後なので顔は見えませんが、茶色でモフモフな姿は愛嬌があります。


「カオルちゃん、これも美味しいわよ」


「これ、美味しかったからぶん取ってきたわ」


 酔った男性の席から料理を貰ってきた女性スタッフの人や共演者の人が僕に食べさせてくれました。嬉しいのですが、そろそろお腹が一杯です。


「あれ、おかしいな」


 烏龍茶を飲み一服した時に、妙な事に気づきました。あの大きなヌイグルミがなくなっていたのです。安定していたようなので落ちたという事はないでしょう。


「持ち主が取りに来たとか?」


「この夜中に?わざわざバスのドアを開けて取りになんて来させてくれないでしょう」


 ぼくの呟きが周囲に伝染して、皆がバスに注目しています。その時、バスの前で白い影がスーッと窓を横切りました。


「あ、あれ見たか?」


「あはははは、見えたわねぇ」


 酔って騒いでいた人達も、一気に酔いが醒めたようです。


「そ、そろそろ時間です。お開きにしましょう。明日の朝食は其々の部屋に運ばれます。集合の時間に遅れないよう注意して下さい」


 楽しい筈の宴会が、妙な落ちがついて終了となってしまいました。


「ね、ねえカオルちゃん。何かあったら不味いから一緒に寝ましょう」


 少し震えた声でぼくの腕に抱きつく長門さん。いくら心霊現象に見舞われたからといっても、一緒に寝るのは不味いので断りました。

 でも、引っ越した理由が心霊現象を体験したからだと言われ、懇願する長門さんに負けて一緒のベッドで就寝しました。

 間違い?怖がり震える長門さんが寝るまで頭を撫でていたのでそんな雰囲気にはなりようがありませんでしたよ。


 翌朝、朝食を食べた僕達は迎えに来たバスに乗り観光地を巡りました。

 世界遺産に登録された韮山反射炉に浄蓮の滝。旧天城トンネルやループ橋を通り下田へと抜け特急で東京へと帰ります。


 特急に乗ると、殆どの人が眠ってしまいました。よく眠れなかった人が結構いたようで、長門さんもすぐに眠ってしまいました。


 二人席の通路側で長門さんご眠っているので車内をうろつくことも出来ず、スマホもトンネルが多く電波状態が良くないので使えません。僕はぼうっと窓の外を見ていました。


 幾つ目かのトンネルに入り、窓に車内の景色が鏡のように映ります。手をついて窓を見る僕の顔や、隣で眠る長門さんの横顔もはっきりと映りました。


 その時、正面から僕を見つめる女性の顔と目が合いました。少し丸い顔にショートの黒髪。

 何も考えずにその女性を見ていましたが、トンネルを抜けると外の風景に切り替わり鬱蒼とした木々が見えるのみでした。


「え・・・あれ?」


 暫し風景を見ていた僕は、気付いてしまいました。あの顔は、何処から見ていたのでしょう?


 真っ正面から見つめ合っていたので、横や背後からということはありません。通路から見ていたのならば、少し小さく写る筈ですし体が全く映っていませんでした。


 そう、まるで顔だけが窓の外から覗きこんでいたかのように。


 近いうちに、長門さんを誘ってお祓いを受けに行きましょう。


 そう心の中で決めた僕は、うろ覚えの念仏を唱える事に専念したのでした。

「ホラー要素ってこの程度?」とお思いの方も居ると思います。


この話、私の実体験です。


宴会の話しは小学生の修学旅行で。全員子供なので酔っての誤認識はあり得ず、多数の生徒が目撃していたので大騒ぎになりました。


列車の話は私が三才の時。そんな頃の記憶あるの?と突っ込む方もいると思いますが、私の最も古い記憶は二歳の頃の物です。


他にも幾つかの体験がありますが、それは「内緒のアイドル声優」にて披露いたします。


そちらも宜しくお願い致します。

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