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僕、旅に出ました

「データ、残らず出してね」


 笑顔で手を出す僕の前には、脂汗を流したお父さんとお母さんが正座をしています。汗を流す程暑い筈なのに、二人とも体がブルブルと震えています。寒いのでしょうか。


 家に帰った僕は、両親をリビングで待ち構え筑摩さんに関する一部始終を報告しました。そして、撮影された僕のデータを渡すように求めたのです。


「薫ちゃん、これは私の癒しだから・・・」


「いくら保護者でも、本人の許可を取らずに隠し撮りをするというのはどうなの?」


 にっこりと笑みを浮かべながら問うと、二人ともこの世の絶望全てを体現したような表情でSDカードを差し出しました。これはフォーマットし直して初期化してしまいましょう。


 そんな出来事があった一週間後、とある学校の教室では怪しげな呪文が響いていました。


「にーっくにっくにっく!」


「「「「ロッサリンドォォォ!」」」」


「筋肉にっくにっく!」


「「「「「ロッサリンドォォォ!」」」」」


 これは決して怪しげなサバトではなく、歴とした撮影です。主人公の北本遊が声をあてるロザリンドちゃんを讃えるコールなのです。


「はいカット、今日の撮影は終了!」


 監督の終了宣言に、スタッフさんからの歓声が上がりました。彼らが普段以上に喜ぶのは、この後のお楽しみがあるからです。

学校の撮影で僕の出番がないのに現場にいる理由。それは、筑摩さんの騒動が原因です。


 筑摩さんの事務所とは、筑摩さんの解雇と賠償金の支払いによって和解しました。それによりあの騒動は口外禁止となったのですが、主要キャストとスタッフ全員を温泉に招待するというおまけをつけてくれたのです。

 流石に利根さんたち同じ事務所の役者さんは同行しませんが、それ以外の全員が箱根の温泉に行く事になっています。


「皆さん、バスに乗って下さい。宴会の時間が短くなりますよ!」


 店長さんに促され、全員素早い動きでバスに乗り込みます。店長さんが音頭を取っているのは、移動手段を都合したのが店長さんだからです。


 早めに収録を終わらせたとはいえ、バスや電車で移動したらろくに寛ぐ時間もとれません。なので、早く移動出来る方法を用意すると言ってくれたのが店長さんだったのです。

 どんな乗り物かも知らされておらず個人的には物凄く不安なのですが、店長さんも乗るのです。大丈夫だと信じることにしましょう。


「ここで乗り換えです。ここからはあれに乗って行きますよ」


 バスが到着したのは、彩湖の駐車場。洪水対策に作られ、地下に巨大空洞が建造された湖として知られた場所ですが、その湖に白く巨大な物体が浮かんでいました。


「これぞ湖沼往還専用旅客飛空挺、白鳳よ。日本と英国を往復した機体だから、箱根なんてあっという間よ!」


 店長さんに背中を押され、飛空挺に乗り込みました。エンジン音を響かせ優雅に離水した飛空挺は、道中トラブルもなく無事に芦ノ湖に着水しました。


 待機していたバスに乗り、予約されている宿へと向かいます。芦ノ湖から離れ、山を少し登った所にその宿はありました。

 そこは立派なホテルで、玄関では仲居さん達が並んで僕ら一行を出迎えてくれました。


 ロビーに集まると、二人か三人が一室で部屋を割り当てられていきます。僕は長門さんと同室でした。


「ちょっと、これってまずくないですか?適齢の未婚女性と思春期の男子が同室というのはちょっと・・・」


「そうよね。では、私と同室にしましょう!」


 そう提案したのは、メイク担当のお姉さんでした。女性と同室がマズイのに、お姉さんと同室では変える意味がありません。


「同性同士で同室にするのだから、女と同室はダメだろ!」


「じゃあ、可愛いカオルちゃんを狼と同室にするとでも?カオルちゃんはわたしがたべ・・・守るのよ!」


 すったもんだの挙げ句、長門さんと同室という元の鞘に収まりました。この旅行、僕に平穏はあるのでしょうか。

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