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僕、顔合わせに出ました

「カオルちゃん、久しぶり!」


「店長さん、お久しぶりです。また特殊撮影の関係で?」


 新しいお仕事の顔合わせに行くと、デュアルワールドの撮影で立体映像の機械を提供してくれたお店の店長さんが座っていました。

 今回のドラマは現代もののお話なので、特殊な機材は必要ない筈なのですが。


「違うわ、今回は私も演じる側よ。主人公の親友役の岡部友子役をやるの」


「えっ、店長さん女優もやっていたのですか?」


「やっていないわ。まぁ、同姓同名だからだとでも思っていて頂戴」


 言われて思い出したのですが、台本に書かれた親友の名前が岡部友子で、店長さんの名前も岡部友子でした。でも、名前が同じだからと役を任せたりするでしょうか?


「疑問はわかるけど、そこは当て書きだからなの」


「店長さん、作者さんとお知り合いだったんですね」


 当て書きとは、実際にいる人をモデルにしてキャラクターを書くこと。お話の親友が店長さんをモデルにしているのならば、店長さんは演技せずに素で良いということになります。


 そんな話をしていると、次々と役を貰った俳優さんが入ってきました。女優さんが必ず僕を抱き締めて、男性の人がそれを羨ましげに見るのはお約束です。


「皆さん、僕が思春期の男だと忘れていませんか?」


 見た目は女の子でも、心は立派な男の子です。そういう方面の欲だって、ちゃんとあるのですよ。


「「「「「カオルちゃんなら、一線を越えてもいい!」」」」」


「未成年相手に止めて!不祥事起こされたら、ドラマが無くなるから!」


 監督さんの心からの叫びが室内に木霊しました。デュアルワールドの時と同じ監督さんです。また作者さんに引きずり込まれたのでしょう。


「女性陣の気持ちもわかるんだよなぁ・・・」


「俺、ノーマルだけどカオルちゃん見てると道を踏み外しても良いかって気になるもんなぁ」


 そのセリフが出た瞬間、女性陣の皆さんが男性陣から隠すように僕を囲みました。


「はぁ・・・撮影時には変な確執を持ち込まないでくださいね。それと、クラスメート役の人達は撮影時に紹介します」


 監督さん、この撮影でも胃にダメージが蓄積する事を避けられそうにありません。良く効く胃薬を差し入れるべきでしょうか。


 そんな懸念を他所に、撮影は順調に進みました。日程に遅れが出る事もなく、表面的にはトラブルもありません。


「全く、最近の学校はどんな教育してるんだか。事務所も事務所だよ。もう少しちゃんと教育して欲しいと思うのは贅沢なのかなぁ・・・」


 最近、撮影の合間に監督さんの愚痴を聞くのが日課になっています。僕を男性に近づけないようガードしてくれる女優の皆さんが、監督さんだけ例外にするほどのやつれようです。


 原因は、学校のシーンに出演するクラスメート役です。我が儘な子が多く、それぞれの事務所に文句を言っても改善されないそうです。

 僕は妹役なのでクラスメート役の人達との絡みはない上に、その中に武蔵芸能の人はいなそうです。なので僕に愚痴を言っても影響が少なく、愚痴を溢すのに最適なのでしょう。


「管理職は大変ですねぇ」


「そうなんだよぉ、カオルちゃん!」


 感極まった監督さんが、僕に抱きつこうとしました。しかし、主役とお母さん役の女優さんが僕の両脇からストレートを放ち監督さんは後ろに吹き飛びました。


「油断も隙もないわね」


「カオルちゃんを抱き締めて良いのは、私達だけよ!」


 男の人に抱き締められるのは嫌ですけど、女性に抱き締められるのもある意味問題があります。無防備に抱き締めるので、顔に柔らかい物が当たっています。


「抱き締めるのは論外としても、カオルちゃんに癒されたいって気持ちはわかるのよねぇ。あれはストレス溜まるわよ」


「そんなに酷いの?其々の事務所には抗議しているのに改善されないの?」


 至極真面目に問題を話し合っていますが、お母さん役の人が僕を抱き締め主役の人が僕の頭を撫でているのでシリアスさに欠けます。


 この撮影、果たして無事に終わるのでしょうか?



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