閑話 闇で企む男たち
ここは、とあるビルの一室。窓には黒いカーテンが掛けられ、日差しが入らぬようガードされていた。
暗い室内での唯一の光源は、降ろされた真っ白なシートに映る映像。そこには可憐な少女の姿が映し出されている。
「・・・以上が今回の企画となります」
壇上に立ち、指示棒を使い説明をしていた男が指示棒を畳み礼をする。
「無茶を言うな。そんな企画、通る筈がない」
「もしも事務所が了承したとしても、ご両親の許可を得る必要がある。君はわが社を倒産させたいのかね?」
円形に並べられた席に座る男たちが、口を揃えて壇上の男を非難する。しかし、壇上の男は怯んだ様子が無かった。怯むどころか、自信満々に反論さえしてみせる。
「では、どのような番組を作れば良いとお考えで?反対されるからには、その案に代わる素晴らしい案をお持ちと考えて宜しいですね?」
会議室に居並ぶ男達は、一斉に顔を背ける。皆反対はしたものの、代案など誰も持ち合わせて居なかったのだ。そうと予測していた壇上の男は、更に畳み掛ける。
「昨今の芸能界の苦境を、皆様御存じないとは言わせませんよ。下手な芸能人を使えば、不祥事で番組ごと潰れます。そうなった場合、どなたが責任を取って貰えるのでしょうか」
熱弁を奮う壇上の男と視線を交わす者は居ない。誰だって責任なんぞ取りたくはないのだ。
「確かに、この企画は通りにくいでしょう。しかし、もしもこの企画が通った場合かなりの視聴率を望む事が出来ます。彼の注目度の高さは、言うまでもないと思います。更に、彼に不祥事が起こる可能性も限りなく低いでしょう」
「確かに君の言う通りだ。彼ならば異性関係でも、暴力団関係でも、薬物関係でも不祥事が起こるとは到底思えない」
「実現すれば、視聴率もかなりの物となるだろうな。番組が出来たなら、私だって見てみたい」
席に座っていた十人近い男達は、同意するように首肯する。壇上の男は、満足そうにそれを見ていた。
「ただ一つ、もしもその企画が通った場合に頼みがあるのだが」
通ったと思った企画に注文が着いた事に、壇上の男は眉を歪める。しかし、文句を言うことなく続きを促した。
「出来たら、その、サインを貰ってきてもらえないだろうか。『阿賀野さんへ』と名前入りだと嬉しいのだが・・・」
頼みが企画に対する事で無かった事に、壇上の男は安堵すると同時に「こんな男が重役で、この会社大丈夫か?」と不安を感じた。
「ちょっと待て常務、それならば社長の私が優先だ!」
「社長、常務も落ち着いて下さい。ここは間を取って私がサインを貰うということで・・・」
他の出席者も参戦し、収集がつかなくなった会議室。壇上の男はため息をつきプロジェクターに映る少年を見る。
年齢にそぐわない豊かな胸を巫女服に包み、頬笑む少年。どこから見ても少女にしか見えないが、男であると本人が公言している。
「確かに可愛いし、知らなければ俺も惚れるとは思うけど。信じられない事に男の娘なんだよなぁ」
見ているうちに危ない道に踏み込みそうになった男は、サインを巡って争う重役達という現実を見る。
「本人には撮影を隠しますから、サインをもらうなんて無理なんですけど・・・誰も聞いてくれないですね」
この日何度目かわからぬため息をついた男は、この仕事が終わったら転職先を探そうと心に誓うのだった。