僕、クイズ番組に出ます
あれから一月程が経ち、警察や各種学校巡りを終わらせた僕は事務所で半分死んでいました。そんな僕に、長門さんが缶コーヒーを差し出してくれました。
「カオルちゃん、お疲れみたいね」
「あのスケジュールて疲れない人がいたら、連れてきて貰えますか?」
デュアルワールドの撮影の合間を縫って、北は北海道から南は沖縄まで行ってきました。あの強行軍でへたばらない人は居ないと思います。
「そんなカオルちゃんに、新しいお仕事の依頼が来ました」
「え?暫くは撮影に専念するのでは?」
貰ったコーヒーを飲みつつ、疑問を口にします。あの騒動で監督さんに迷惑をかけたので、撮影に専念したいというのが僕の正直な思いです。
「クイズ番組へのゲスト出演だから、撮影に影響しないわ。それに、作者さんが乗り気でねぇ」
撮影に影響がないのは良いとして、何故に作者さんが乗り気になるのでしょうか。あの人はテレビ嫌いだった筈です。
「オファーが来てるのが、脳力試験という番組なのよ。カオルちゃん、知ってるかしら?」
番組名を聞いて納得しました。その番組の司会者は二人とも現役の声優さんなのです。作者さんはラノベや声優さんが好きなので、おこぼれの見学を狙っているのでしょう。
「見たことはありますし、ネットでも話題になるので知っています。出ることに否やはないですけど、独特の決まりとかありますか?」
「あの番組はガチだと業界でも有名だし、特には無いと思うわよ。それを聞くということは、受けても良いのね?」
そんなこんなで、僕はクイズ番組に出ることになりました。次の撮影時に作者さんが来て期待に満ちた目で僕を見ていましたが、見ていないふりをして惚けてしまいました。
ぽっと出のタレントが、ゲスト出演するからって見学者を招くなんて出来る筈ないですから!
「始めまして、新人タレントのカオルです。宜しくお願いします。番組いつも見ています」
撮影当日、早めにテレビ局に入った僕は司会のお二人に挨拶に来ました。
「司会の朝霞です、こちらこそ宜しく。この番組は完全に真剣勝負だから、優勝を狙ってくれ」
「同じく司会のユウリです。朝霞さんの言う事は本当よ。私が前例だから」
男性声優の朝霞さんと、女性声優のユウリさんは気軽に接してくれました。主役も張っているベテランさんなのに、新人の僕を見下したりしません。
「ユウリちゃんもゲスト出演した時、初登場で初優勝したんだ。懐かしいなぁ」
ユウリさんはゲスト出演を数度した後でレギュラー入りし、当時の女性司会者さんが引退した時に司会者となったそうです。
その後、例え断トツで点差が開く事になろうとも制限や編集はしないから全力で答えてほしいと言われました。掲示板でヤラセ無しと噂されていたのは、真実のようです。
二人の前を辞して、他の解答者の方々に挨拶に行きました。半分以上は他のバラエティーで顔を合わせた方でしたので、特に問題もありませんでした。
セットには見学者の人達が入り、ADさんから注意を説明されます。それが終わったところでセットに入り、名前が書いてある解答者席に座りました。
他の解答者の人達も着席し、司会のお二人が入って撮影の準備は完了です。
サングラスをかけたディレクターさんが、指を折ってカウントダウンを始めます。全ての指が折れて、撮影が始まりました。
「さあ、今夜も脳力試験の始まりです。選び抜かれた解答者の、真剣勝負をお楽しみ下さい」
「今日は可愛いゲストさんも呼んであります。知っていなかったら、絶対に同性とは思えない可愛さです!」
いつもの通り、ユウリさんと朝霞さんの口上て始まりました。出だしから僕の話題に触れています。
考えてみたら、僕は中学中退でした。今更ですが僕、答えられるのでしょうか?