僕、再開しました
伊良湖議員が議員を辞職した事により、想像を遥かに上回った騒動は終結しました。これでやっとタレント業を再開出来ます。
監督さんや他の役の人達に迷惑をかけてしまったけれど、電話で謝意を伝えた所逆に励まされてしまいました。
女性芸能人を中心にキャンペーンを張って僕を擁護してくれていたそうで、それでマスコミが加速し伊良湖議員叩きが失速しなかったそうです。
そんな騒動も終わり、今日は長門さんに迎えに来てもらってデュアルワールドの撮影に行くのです。
「長門さんおはようございます。長い間ご迷惑をお掛けしました」
「悪いのは虐めていた奴と、その保護者よ。カオルちゃんは何も悪くないわ!」
擁護してくれるのは嬉しいのですが、どうしても長門さんの異様なファッションに目がいってしまいます。
今日の長門さんは、若草色のレディーススーツを見事に着こなしています。出来る女というイメージの長門さんによく似合っています。
問題なのは、首から下げたロザリオに右手首に絡む数珠。左手には経文の巻物が握られ、車には何枚か護符が貼られていました。
「・・・随分と独創的なアクセサリーですね」
聞かない方が良いだろうとは思うのですが、聞かずにはいられませんでした。僕が休んでいた間に、長門さんはどこぞの宗教に入信してしまったのでしょうか。
「カオルちゃんが休みの間に、引っ越し荷物を前の家から運んだのよ。急いで引っ越したから、最低限の物しか持ち出さなかったから」
これ以上聞いてはいけないような雰囲気に、話題を変えようと思いました。長門さん、笑顔なのに表情が死んでます。
「今回の騒動で、監督さんたちに迷惑をかけてしまいました」
「監督や共演者の皆にも取材が殺到したらしいわ。でも、名を売ってナンボの商売だから迷惑なんて事はないから大丈夫よ」
撮影所に着くと、監督を始めとしたスタッフすん達から暖かい声を掛けられました。撮影のスケジュールを遅らせた事を詫びると、映画の撮影なんて遅れるのは当たり前だと笑い飛ばされてしまいました。
今日の撮影は戦闘シーンからです。頭が苺のゴリラ、イチゴリラを狩りまくるシーンです。
このところ屋外での運動が出来なかったのでストレスが溜まっています。思い切り動いて発散させてもらいましょう。
襲い来るゴリラを、二枚の円月輪を駆使して切り裂いていきます。室内でのトレーニングは欠かさずやっていましたが、矢張り思うままに動くのとは爽快感が違います。
予定していた時間が過ぎ、今日の撮影は終了です。少し前倒しで撮影出来たので、遅れを少し取り戻す事が出来ました。
スタッフの皆さんに見送られ、長門さんの車で事務所に向かいます。
「休み明け早々申し訳ないけど、カオルちゃんに仕事が殺到してるわよ。新しい所としては学校や教育機関での公演、警察の虐め防止ポスターのモデルとか」
マスコミの取材合戦により、僕が受けた虐めは詳細に報道されました。それにより、自殺してもおかしくない虐めを乗り越えたと称賛の声があがり虐められている子供の希望とか持て囃されたのです。なので、そういう仕事が来るだろうと予測はしていました。
「嫌な事を思い出すでしょうし、断る方向で検討してるのよ。でも、一応そういう依頼があったと知らせておかないと関係者に問われた時に困るから」
「お気遣い、ありがとうございます。でも、この体型になったと知った時にトラウマは半ば吹き飛びましたから」
外に出ようと思う程度に軽減出来た所に、外見女体化のインパクトを受けましたからねぇ。
「私も前のカオルちゃんの写真を見せて貰ったけど、確かにあの姿からこうなったら衝撃的よねぇ」
虐めの記憶が薄れて幸いか、人生の方向がとんでもない方向に向かったので不幸なのか。
神様は、僕にどんな人生を望んでいるのでしょう。
それは神様(作者)にもわかりません