僕、又もや答えて貰えませんでした
記者会見の終了から三時間程経った頃。玄関が激しく叩かれる音がしました。
「今忙しいのに……お父さんお願い」
「忙しいって………はいはい、どちら様?」
反論しようとしたお父さんは、お母さんと穂香の厳しい視線に迎撃されて玄関へと姿を消しました。二人は今、某拳法の型稽古をやっています。
ネットの動画で見ただけの僕が教師役なので、そんなに本格的な物ではありません。なのに、二人は真剣に稽古に励んでいます。
「前にも言ったけど、これで胸が大きくなる訳ではないからね?」
「可能性があるなら、全てを試すのが女というものなのよ」
そう答えながらも稽古に励むお母さんですが、お持ちの胸部装甲は標準を十分に上回る物だと思います。
「玄関が騒がしいわね」
「お父さん、何やっているんだろ?」
稽古を中断して廊下を覗く二人。玄関の方を見た瞬間に殺気が立ち上ったように思えるのは僕だけでしょうか。あっ、お母さんが玄関に向かいました。僕も見てみましょう。
「お姉ちゃんは行っちゃダメ。稽古で疲れたから、抱き締めて癒して」
廊下を覗こうとした僕は、穂香に捕獲されてリビングに逆戻りしました。ソファーに座らされると、隣に座った穂香が抱きついてきます。
「むう、すぐ側にある目標に届かない。やっぱりお姉ちゃんのを分けてもらわないと」
「男の胸を目標にするんじゃありません。それと、分けたくても分けられないから。それが出来るなら、丸ごと譲渡したいわっ!」
譲渡したい僕と、譲渡されたい穂香。お互いの利益は一致しているというのに、それが出来ない。人生はままならないものです。
「穂香、お母さんとお父さん出掛けてくるから。そっちは頼むわよ」
「了解。お母さん、私の分もお願いね」
どうやら、両親は出かけるようです。先ほどの訪問者と関係あるのでしょうか。
「穂香、誰が来たんだ?それに穂香の分までって何をだ?」
「そんな事はどうでも良いのです。それよりも、どうしたら私もこの大きさと柔らかさを獲得出来るかが問題なのです。その為には、研究と努力を惜しんではいけないのです」
「ちょっ、こら!シャツを捲るな!揉むんじゃない!」
徐にシャツを捲った穂香は、直に僕の胸を揉みだしました。男の胸を揉んで、何が楽しいのやら。
「それで、撮影の方は順調なの?」
「今回の件でスケジュールは狂うだろうけど、それを除けば順調かなぁ」
穂香にせがまれるままに、撮影やテレビ出演の時の話をしました。穂香は聞き上手で、途切れる事なく話を続けます。
「ただいま。穂香、ごくろうさん」
「遅くなったから、今夜は店屋物よ。中華でいいわよね。と言うか、もう出前頼んであるから」
いつの間にやら時間が経っていたようで、疲れた顔の両親が帰ってきました。パワフルに仕事をこなす二人がここまで疲れるなんて、一体何をして来たのでしょう?
そんな疑問を問える空気ではなく、程なく届いた出前で和気藹々の夕食タイムてす。
「お姉ちゃんの胸は反則。中毒性かあると分かっていても止められないの」
「それには同意するけど、娘に負けたというのか複雑な気分なのよねぇ」
穂香よ、僕の胸に中毒性など無いから。それとお母さん、娘ではなく息子です。
「なぁ、お父さんも体験したいんだ」
「「却下!」」
言葉の途中でお母さんと穂香にバッサリと切られたお父さんは、泣きながら蓮華で燕の巣のスープをつついています。
満漢全席を食べ終えた僕は、泣き崩れるお父さんを無視してお風呂に向かいました。