僕、記者会見を見ます
あれから数日経ちました。武蔵芸能への問い合わせは減ることもなく、武蔵社長が白旗を上げた為に記者会見を予定より早く行う事となりました。
「こちらはホテル・ドレッドノートの広間です。この後、カオルさんの性別問題に関する会見が開かれるとの事です」
テレビはどこも記者会見の中継を流すようで、どこにチャンネルを回しても会見場が映ります。
予想はしていましたが、女性アナウンサーの背後には沢山の報道関係者と思われる人達が詰めているのが映っています。
「皆様お待たせしました。これよりカオルさんに関する記者会見を始めたいと思います。私は弁護士の長良と申します」
きちっとしたスーツを着こんだ男性が設えられた演壇に上がり自己紹介しました。カメラのストロボが収まるのを確認すると、徐に話し出します。
「まずはっきりとさせておきます。カオルさんの性別は間違いなく男であり……」
「本人はどうした!人を騙した本人からの謝罪もなんて言わないだろうな!」
長良弁護士の言葉を遮り、記者の一人が叫びました。すると、他の記者も便乗するように僕を出せと騒ぎ出します。
長良弁護士は、ため息をつくと徐に両手を広げて思い切り合わせました。叩かれた手の音に、騒いでいた記者も口が閉じます。
「質問は挙手をして指名を受けてからするようにと通達した筈ですが?決められたルールも守れないならこれで打ち切りますよ」
低い声で感情を乗せずに告げられた言葉に殆どの記者は尻込みし、反論が出来ません。しかし、反抗する気骨のある記者もいました。
「話題になるために性別を偽って、視聴者を騙したくせに生意気を言うな。こっちはあんたなんかの話を聞きに来たんじゃないんだ!」
立ち上がってそう叫んだのは、始めに長良弁護士の言葉を遮った記者でした。そんな彼に、長良弁護士は醒めた目を向けると即座に言い放ちました。
「ならば退場して下さい。カオルさんは未成年であり、あなたのような悪意に満ちたマスコミから守るのが私のような弁護士の仕事です」
「ふざけんな、タレント風情が!ならばカオルを叩く記事を載せても構わないんだな!」
「どうぞご自由に。こちらは脅迫と威力業務妨害、名誉毀損で告訴させていただくだけですので」
法律のプロである弁護士に喧嘩を売るとは、馬鹿な記者も居たものです。世間は無条件で自分を支持するとでも思っているのでしょう。
「あの記者の会社から、全ての広告契約引き上げだな」
「機材や消耗品の納入がないかも調べて、あったら停止させるべきね」
お父さんとお母さんが、物騒な打ち合わせを始めました。記者本人だけでなく、所属する会社ごと社会的に抹殺されそうです。
自業自得といえばそれまでですが、巻き込まれた同僚や上司の人達には同情してしまいます。
記者会見を中断させている記者に、他の記者から冷たい視線が浴びせられます。それに怯んだ記者は、荷物を持つと逃げるように会見場から出ていきました。
「会見を続けます。カオルさんは好きであのような格好をしている訳ではありません。彼の意思に反して女性のような体つきになってしまったため不本意ながら女性の服を身に付けています」
ここで記者の一人から手が上がり、長良弁護士が指名すると立ち上がって質問をしました。
「本人の意思ではないということは、誰かに強制されているということですか?」
「カオルさんは、とある事件で女性のような体つきになりました。あのスタイルで男性服を着て本当の性別を知らなかったら、あなた方はどのような視線で彼を見るでしょうね」
そう問われた記者達は、揃って納得してくれてようです。変人、とまでは思わなくとも奇異な目で見る事は間違いないでしょう。
記者から質問か出ない事を確認した長良弁護士は、会見を続けるべく演壇に置かれたお茶で喉を湿らせました。