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僕、愛されてます

「視聴者を騙して人気を得ようとする事が、問題ではないと言うのですか!」


「だから、あなたはカオルちゃんが好き好んで女だと偽ったと決めつけているでしょう!」


 若い女性キャスターと、どこぞの評論家という肩書きのオジサンが激しく言い合っています。


「どこのチャンネル回しても、お姉ちゃんの話題だね」


「予想してはいたけれど、ワイドショーはこの話題一色だなぁ」


「この胸で男の娘だとは誰も思わなかったでしょうから」


 朝の一時。家族揃って食後のせんぶり茶を飲みながらテレビを見ています。穂香のいう通り、どこのチャンネルに回しても僕が男だった事に対する議論をやっています。


「お母さん、お茶を飲み辛いから揉むのは止めて下さい」


 僕はソファーに座ったお母さんに後ろから抱かれていますが、お母さんの両手は僕の胸を揉みしだいています。


「あら、減るものじゃないしいいでしょ?」


「むしろ、減るならば幾らでも揉んでほしいです。でも、逆に増えていっているような気が………」


 計った訳ではないから断言は出来ないけど、胸部装甲の重量が若干増えたような気がしています。


「そうそう、その胸の原因だが薫の仮説が正しかったかもしれん。血液を検査して貰ったところ、ホルモンバランスに異常が確認されたそうだ」


「えっ、血液検査なんて受けた覚えがないよ」


 昨日休みになるまで、仕事が立て続けに入っていたので病院なんて行っていません。血液検査というからには、採血をしなければ出来ない筈です。


「薫が入院した時に、検査のためにやった採血のサンプルを保管させておいた。それを検査させたんだ」


 僕が引きこもる前の血液が保存されていたようです。後に後遺症のような物が出た時の為に冷凍保存させていたそうで、所謂「こんな事もあろうかと」という奴です。


「お姉ちゃんを叩いてる馬鹿もいるけど、一部の男だけみたいよ。お姉ちゃんを叩けば、世の女性を敵に回すもんね」


 穂香の意見は極論だと言いたい所ですが、各チャンネルを見ると女性のコメンテーターは全員僕を擁護してくれています。

 芸能界の女性は僕の事情を知っている人が多いので、何故僕が女の子のような格好をしていたかの理由を知っていたかどうかが分かれ目のような気がします。


 僕の正体はまだばれていないので、うちに取材攻勢をかけに来るマスコミはいません。しかし、武蔵芸能には大量の問い合わせと取材のマスコミが押し寄せていると長門さんがメールで愚痴という名の報告をしてくれました。


「取材攻勢の限界で会見を開く手はずになっている。だが、顧問弁護士に任せるから薫は心配しなくていい」


 集めたマスコミの前で、全てを話す。それが僕らの作戦です。それで世間がどんな反応をするか。それにより芸能活動の終了までも考えています。

 家族と長門さんは「それは絶対にあり得ない」と口を揃えて言ってくれていますが、この世の中にあり得ないということはあり得ないのです。


「薫、何があろうとお父さん達は薫の味方だ。薫は薫の思うように生きればいい」


 そう言って頭を撫でてくれたお父さんと抱きついてきた穂香、後ろからギュッと抱き締めてくれたお母さんの愛情に包まれた僕は、ただ無言で頷きました。


 どんな外見であろうとも、愛してくれる家族がいる。そんな小さくて大きな幸せを再確認させてくれた朝でした。

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