僕、盛大にばらしました。
薄暗い洞窟の中。巨大なモグラを相手に、二人の戦士が戦っていた。
「洞窟のダンジョンだからモグラはわかるけど、何で武器持っとんねん!」
戦士の片方であるサスケが叫んだ通り、モグラは両手に武器を持っていた。先にいくに従い細くなっていくそれは、俗に突撃槍と呼ばれる代物。それを両手に抱えて持ち、突撃を繰り返してくる。
「しっかしあのランス、輪切りにして納豆と卵に混ぜたくなるよな」
「モグラの武器がオクラって、駄洒落かっ!」
ハナがモグラをかわしざま切り裂く。モグラは光の粒子となって消えていった。戦闘の終了を確認した二人は辺りを見回し、危険な敵がいない事を確認して一息つく。
「しっかし、男臭いダンジョンやな」
「しゃあないわ。男性限定のイベントダンジョンやし」
二人が見回したダンジョン内には、モグラと戦う男達の筋肉が唸り汗が飛び散る光景が広がっていた。
「むさ苦しいったらありゃしない。唯一の癒しは巫女服のカオルちゃんやな」
「せやねぇ。これが本当の紅一点・・・おい、何でカオルちゃんがおんねん!」
男祭りとも言うべきダンジョンの中で、カオルは巫女服で舞うように戦いモグラを屠っていた。その優美な舞いと揺れる胸に見とれ、死に戻るプレイヤーが続出したのはご愛敬。
「カオルちゃん、どうやって入ったんねん!」
「このダンジョン、男性限定やで!」
丁度戦いを終えたカオルに突撃するサスケハナの二人。
「えっ、僕男だもん。当然入れますよ」
「「嘘や・・・」」
思ってもみなかった答えを当然のように告げられた二人は、両の手足を地面につき泣き崩れるのだった。
「サスケハナの二人、あれ絶対演技じゃないわね」
「そうだな。気持ちはわかるが・・・」
リビングのテレビで新作コマーシャルを見たお母さんの呟きに、苦笑いしながら答えるお父さん。
「あれ、本当は呆然と僕を見送る予定だったの。僕の答えをサスケハナのお二人は知らされてなかったみたいで、崩れたの演技ではなく素です」
二人は僕を男の子だと知らなかったから、素でどう反応するか見たかったそうです。そして、予想通りのリアクションだったのでそのままコマーシャルに採用されました。
「今頃、武蔵芸能とゲーム会社には問い合わせが殺到しているでしょうね」
「多分問い合わせの対応だけで手一杯だろう。それに長門マネージャーも駆り出されるから休みになったのだろう?」
お父さんの問いに、首肯する事で肯定します。信頼できるバイトを臨時で雇うと武蔵社長は言っていましたが、焼け石に水でしょう。
「薫はテレビの仕事と撮影で忙しかったからな。数日は休息に充てなさい」
「そうします。休めたら、ですが」
家にいたらいたで、やる事・・・と言うかやられる事がありそうです。現に今も、ソファーに座った僕の太股には穂香の頭が乗っています。
「穂香も、薫に甘えられなくて寂しがっていたから」
「分かってます。出来るだけ甘えさせますよ」
そう答えると、心中で盛大なため息をつく。今更だと言われるだろうから言わないけれど。今は平日の昼前なんですけどね。
両親も穂香も、仕事や学校はどうしたのでしょうね。問うても「薫とのスキンシップが大事!」と返ってくるのが分かっているから聞きませんけど。
「弁護士との打ち合わせも、既に終わっている。何の心配もしなくていいから任せなさい」
これで反撃の第一段は終わり。問題はこの後だけど、大丈夫。多分、大丈夫なはずだ。