僕、反撃します
「大人しくしていれば見逃してやったものを………」
「約定を破った以上、徹底的に潰されても文句は言えないわよねぇ」
お父さんとお母さんが黒く染まってます。全身から漆黒のオーラが立ち上るのが見えるようでした。
「お父さん、その議員と何かあったの?」
聞くのは怖いですが、僕に入った依頼です。断るにしても詳細を知る必要があると思います。なので、ありったけの勇気を振り絞って質問しました。
「薫、この件はお父さんとお母さんが処理しておく。この事は忘れてしまいなさい」
お父さんが頭を優しく撫でながら言いますが、ここで逃げてはいけないような気がします。
「僕は、逃げずに前を向いて歩きたい。だから、都合が悪いことにも目を背けたくない。お父さん、教えて?」
正直言うと、逃げたい事はあります。だってね、男なのにスク水やバレリーナ姿にされるんですよ。しかも、それが日本全国に公開される事が決まっているのです。
でも、一度受けた仕事だから逃げません。過去に戻れたら仕事を受けた僕を殴ってでも止めようとは思いますけどね。
「薫がそこまで覚悟しているならば話そう。この依頼をしてきた伊良湖議員は、元々はこの県の県会議員だった」
それを聞いた瞬間、僕の全身から力が抜けました。元この県の県会議員で伊良湖という名前。こんな珍しい名字の議員なんてそうはいません。
少なくとも僕の知る限りでは、僕を三年間虐めた息子の所業を揉み消し続けた相手だけです。
「薫ちゃん、大丈夫。私達が潰すから、忘れてしまいなさい」
崩れかけた僕を、お母さんが優しく抱き抱えてくれました。
「奴は間宮派だったな、派閥ごと乾し上げてやろう。今後一円たりとも政治献金など受けられないようにしてやる。心配しなくとも、薫の事は知られないようにするからな」
政治家の資金は、献金とパーティー等の収益に支えられています。国から支給される手当てだけで活動するなんて、漫画の中の鉄道好きな政治家くらいなものです。
「お父さん、伊良湖を派閥ごと潰したらやけになって僕の事で有ること無いことぶちまけたりしない?」
事件の事を漏らさない密約をしていますが、それはお互いに干渉しない事が前提です。なので伊良湖を始めとした加害者は家族ごと県外に引っ越しました。
しかし、知らなかったとはいえ伊良湖が僕にちょっかいを出して来ました。お父さんが報復に締め上げたら、密約は完全に反故となり伊良湖はどんな手を打つか分かりません。
「奴は腐っても政治家だ。影響力もあるし、面倒になるかもしれんな」
「だから、先手を打ったらどうかと思うんだけど………」
丁度、いつ明かそうか考えていた案件があります。それを一緒に解決してしまいましょう。僕にもダメージがくる方法だけど、比較的少なく済む筈です。
密約破りとなりますが、先に破ったのはあちら。知らなかったなんて子供染みた言い訳なんて聞きません。
「伊良湖は致命傷になるが、薫が傷つく事になる。やはり派閥ごと………」
「遅かれ早かれ、奴らは気付くしあれもカミングアウトする必要があるんだ。だから、今やるのが最善だと思う」
僕の考えを言うと、渋々ながらも両親は賛成してくれました。
「金剛社長に新しいコマーシャルの作成を提案しないとね」
ゲームのコマーシャルを利用する形になってしまうけど、話題になるので勘弁してもらいましょう。
さあ、僕を虐めてくれた奴らにささやかな反撃を開始です。