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僕、パーティーに呼ばれました

「カオルちゃん、元気無さそうだけど大丈夫?」


「ありがとうございます。大丈夫ですよ」


 僕を膝に乗せて頭を撫でながら心配してくれた女優さんに笑顔で答えました。

 あれから一ヶ月が経ちました。撮影は順調に進んでいますが、それと引き換えに僕の精神力がゴリゴリと削られていきます。ある程度覚悟はしていましたが、ナース服やウサギさん着ぐるみパジャマでの撮影は予想以上にキツイものがありました。

 その合間を縫ってバラエティーへの出演もやっていますが、僕の立ち位置は相変わらず女性出演者の方たちのマスコットです。


「カオルちゃん、社長が帰りに事務所に寄って欲しいと言ってます。構わないかしら?」


「それは構いませんが………どうしたんでしょう?」


 仕事の選別は任せてしまっていますし、スケジュールは長門さんに伝えてもらえば済む話です。僕を呼ぶ理由がありません。それでも呼ばれたからには行くのが道理。女優さんに別れを告げて事務所に向かいました。


 社長室では、大和社長が眉間に皺を寄せてため息をついていました。机には一枚の紙が乗っています。


「カオルちゃん、長門君。早速で済まないが、この仕事を受けるかどうかの意見が欲しい」


 机に乗っていたのは、僕に対する依頼書でした。普通の出演依頼ならば、社長と長門さんの合議で決める筈です。ならば、この依頼は特殊な依頼なのでしょう。


「そういう依頼ですか。私には判断つきませんので、社長とカオルちゃんに任せます」


 そう言って渡された依頼書を読むと、パーティーへの参加依頼でした。とある政治家が国会議員に当選し、パーティーを開くそうです。それに出て欲しいとの事でした。


「パーティーですか。僕に何を望んでるのでしょうね?」


「芸能人がパーティーに呼ばれるのだから、盛り上げ要員だろうね。ステージで歌や芸を披露するに決まっている」


 当然のように答えた社長さんですが、忘れている事がありますよね。


「だから困るのですよ。僕、歌もお笑いも出来ないですよ?」


 僕がやっている芸能活動といえば、デュアルワールドの撮影とバラエティーへの出演です。

 パーティーで寸劇を行う訳にはいきませんし、バラエティーでは愛でられているだけなのです。その僕に何をやれと言うのでしょうね。


「女性の出席者がいれば愛でられるでしょうけど、ああいうパーティーはほぼ男性だからなぁ」


 死んだ魚のような目で語る大和社長。政治家のパーティーでトラウマでもあるのでしょうか。


「チケットを押し付けられて行った事があったが、酷いものだった。会場はさほど広くなく、料理や飲み物も少ない。交わされる話題はおべっかと腹の探り合いだった」


 政治家のパーティーは、社交界のパーティーとは全く別物らしいです。僕は政治家のパーティーも社交界のパーティーも出たことが無いので分かりませんけどね。


「政治家へのコネが出来るという意味ではチャンスだが、無茶ぶりする政治家もいるから微妙なんだよ。カオルちゃん、この依頼書家に持ち帰ってご両親と相談してくれないか?」


 社長は、僕を通じて判断を両親に丸投げしたかったのですね。うちの両親ならば政治家の事にも詳しそうですから、無難な判断だと思います。


 そう軽く考えた僕は、帰宅後両親にその依頼書を見せました。その瞬間、両親の顔から表情が抜け落ち背後に竜虎が見えた気がしました。


 大和社長、両親の怒りがあなたに降り注いでも僕には庇えません。どうか立派に成仏して下さい。

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