僕、お婿に行けません
僕が葛藤している間に、映像装置を操っていたスタッフさんたちが深刻そうな顔で話し合っていました。何か問題でも発生したのでしょうか。
「カオルちゃん、思ったよりも処理能力に余裕が無さそうなのよ。なので防具は実際に身につけてもらえないかしら?」
「必要な衣装は当然こちらで用意します。円滑な撮影のためにお願いします」
思ったよりも僕の動きが早く、円月輪の映像処理に容量をくってしまったようです。そこに防具まで被せる処理を行うと、処理能力が低下し撮影に支障が出る可能性があるとのことです。
「それは構いませんよ」
撮影で指定された衣装を着るなんて、当たり前の事です。別段断る理由はありません。
「良かったわ。こんな事もあろうかと用意しておいて本当に良かったわ」
店長さんが指を鳴らすと、車輪の付いた衣装ケースが運ばれて来ました。
「随分と大きいですけど、出演者全員の衣装を用意してあったんですか?」
「違うわよ。この中身は全部カオルちゃん用の衣装よ」
普通のタンスの四倍はありそうな大きなケース全部がですか?何でこんなにっ!
そう思った僕でしたが、主人公が装備するユニーク防具の特性を思い出しました。
この物語の主人公が装備する防具は、運営のお遊びにより日替わりで変化するのです。なので、ログインする度に衣装が変わるという設定です。
「一通り着てもらって、不具合が無いか確かめさせてね。撮影時に着たら着れませんでしたとかなったら困るから」
店長さんの言うことは間違えてはいません。ですが、このケースに詰まった全ての衣装を試着しろと?
「先程の戦いで疲れたので、今度の機会に………」
「あら、不具合があったら早くに直す必要があるわ。だから今日試着して欲しいの。ほらほら、男性陣は出ていって!」
僕がまだ了承していないというのに、女性陣の手により男性陣が倉庫から追い出されて行きました。僕に拒否権という物は無いのでしょうか。
「原作で着た衣装は勿論、着なかった衣装も念のため揃えたから着て頂戴ね」
笑顔で要請する店長さんの言葉に、僕は固まりました。確か、体操服にブルマとか、スク水もあったような気がします。
「大丈夫、痛くないから。天井の染みを数えている間に終わるわよ」
「長門さん、その手に握られたスマホは何の為に使うつもりですか?こういう場合、マネージャーはタレントの味方をするべきなのでは?」
「ごめんなさい、カオルちゃん。私は自分に正直でいたいのよ」
味方を探して周囲を見た僕の視界に映ったのは、振り袖やナース服を手にした女性共演者の姿でした。
「………もう、お婿に行けない」
「「「「「私が貰うから大丈夫!」」」」」
ある程度は覚悟していたとはいえ、ビキニアーマーやらバニースーツを着る事になるとは思いませんでした。
小説で読んでいた時は「お約束の展開だなぁ」なんて気楽に思っていたのですが、自分が着るとなると恥ずかしさが半端ではありませんでした。
「カオルちゃん、バニースーツやビキニアーマーは撮影じゃ着ないんだし、元気を出して」
「それならば、それらは着る必要は無かったのではないですか?」
抗議をすると、一斉に目を反らされました。この撮影、本当に大丈夫なのでしょうか。