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僕、後悔しました

「店長さん、パントマイムで試してみます。もう一度戦えますか?」


「それはこちらから頼みたい位よ。次の魔物をお願い」


 店長さんの指示に従い、新たな魔物が産み出されます。今回はオークではないようです。少し小さめの光が収縮し、その姿が確認出来ました。


「これまたお約束の魔物だけど、原作に出ていなかったような気が………」


 背の低い僕と同じ位の胴体には、ウネウネと動く触手が十本程付いています。頭のような部分は見当たらず、前後の区別もつきません。


「流石桶川さん、ローパーとはわかってらっしゃる。これは台本を書き替えないと」


「そんなテンプレ、採用しないで下さい!」


 そりゃあね、女性冒険者を襲う触手はお約束ですよ。でも、自分が襲われるとなると全力で遠慮したいです。

 ローパーはこちらの事情を斟酌してくれず、触手を伸ばして僕を捕らえようとしました。それを半身でかわし、右の円月輪で切りつけます。


「お約束の通り、斬撃には耐性がありますか。厄介ですね」


 切りつけた触手は、ファミリーサイズのペットボトル程ある太さの三割程の傷を負い戻っていきました。ダメージは与えられたようでしたが、紫の体液を吹き出していた傷口は少しづつ塞がっていっています。


「回復までするか………相性最悪の奴を出してくれましたね」


 触手の切断が出来ない場合、捌ききれずに囚われてしまう確率が高いです。大概こういう場合は魔法で対処するというのが正解なのですが、今は円月輪で戦うしかありません。


「触手に絡め取られるカオルちゃん………店長さん、なんておいし……いや、酷い事を!」


「監督さん、不自然に見えないか確認するために、録画しないといけないですよね。お任せください!」


 共演者やスタッフの皆さん、酷いと非難している割には嬉しそうに見えるのは僕の見間違いでしょうか。特に長門さん、嬉々としてスマホで撮影してますよね?


 こうなったら、速攻で倒してしまいましょう。右の円月輪を触手の一本に投げつけます。手で切りつけるよりも威力が高いので、触手の太さの半ば以上を切る事に成功しました。


「まだ威力が足りないか。ならば!」


 左の円月輪も先の触手に向けて投げつけます。しかし別の触手が庇い切断するに至りませんでした。その上、お返しとばかりに二本の触手が襲いかかります。


 何とかかわし返ってきた円月輪の穴に指を入れ、勢いを殺さぬように体ごと半回転してローパーに投げつけます。先程よりも勢いが強いため、見事に触手の一本を切断しました。


「やった!………でも、まだ再生するの!?」


 紫の体液を撒き散らす切断面が、徐々に盛り上がっていきます。手早く切っていかないと、再生されて元の木阿弥になりそうです。


 戻る円月輪を回転してまたローパーに投げます。その間にも襲い来る触手をギリギリでかわし、戻った円月輪を投げて切断。


「凄い、まるで舞いを見ているみたい」


 やがて全ての触手が切断され、再生するまでローパーに打つ手は無くなりました。残るは本体のみです。


「これで終わりっ!」


 円月輪を本体に叩き込みます。かなりの速度となった円月輪は、本体を苦もなく突き抜け戻ってくるので、間髪入れずに投擲しました。


 本体を穴だらけにされたローパーは、光の塊となって消えていきました。


「触手にあんな事やこんな事をされるカオルちゃんが見れなかった………腑甲斐無いわよ、ローパー!」


「店長さん、目的間違えてませんか?」


 ねえ、共演者さんとスタッフさんの全員が顔を逸らしたのは何でなのかな?納得がいくまで説明してほしいのだけど。


「コホン、見た限り違和感は無かったから、カオルちゃんのマイムでやりましょう。皆さん、異論はありますか?」


 態とらしく話題を変えた監督さんに、全員首肯して賛意を示しました。


 この作品、全年齢対象だよね?この仕事を受けた事を少し後悔してしまったのは、不可抗力ですよね?

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