僕、着る服に困ります
「ふわあぁ、よく寝た」
昨日は精神的に疲れたからか、かなり早くに眠ってしまいました。家族に会うと決心したので、疲れる事は覚悟していたのですが、疲れの種類が予想と違う方向だったので余計に疲れたようです。
廊下への扉を開けると、穂香が立っていました。
「お兄ちゃんおはよう。良かった、夢じゃなかったんだ……」
「おはよう、穂香。これからは毎日顔を合わせるよ」
抱きついてきた穂香を抱き止め、頭を撫でる。といきたいところなのですが、残念な事に穂香の方が身長が高いため僕は穂香の胸に顔を埋める事になります。
控えめに盛り上がった膨らみが、僕の顔を挟みます。
「お兄ちゃん、今不穏な事を考えなかった?」
「そんな事ないよ。それより朝ごはんの時間じゃないの?」
穂香はいつの間に読心術をマスターしたのでしょう。ポーカーフェイスを維持して洗面所に行き、顔を洗います。
リビングには既に朝食の準備が為され、両親と穂香は席に着いていました。
「「「「いただきます」」」」
焼き鮭に目玉焼き、海苔と味噌汁の典型的な朝御飯。でも、久しぶりに家族ととる朝御飯です。
お米の一粒も残さずに食べ、食後の玄米茶を啜ります。
「薫、思ったよりも平静なようで何よりだ。だが無理はしないで徐々に慣らした方がいい」
「ああ、うん。ありがとうお父さん。でも、体のインパクトが強すぎて、不安とか吹き飛んだみたいなんだよね」
ネット小説ではTSFは定番ネタだけど、まさか自分がそうなるなんて思いもしなかったからね。
「それはそうと、お父さんもお母さんも仕事に行く時間じゃないの?」
「仕事?そんなもの薫と触れあう事に比べたら些少な事だ。溜まりに溜まった有給を使ったから心配いらん」
「お父さんもお母さんも、同僚にOHANASHIしたら快く有給の消化を認めてくれたわ」
ちょっ、二人とも某大企業の重役だよね?そんな簡単に休めるの?と言うか、重役に有給休暇ってあるの?
「お兄ちゃん、深く考えたら負けよ」
「穂香、重みのある助言をありがとう」
心の平穏を保ちたいなら、スルースキルを全開にしろということですね。
「そんなことは置いといて、薫は服をどうにかしないとな」
「仕事がそんなことって……服は不自由してないけど?」
三年前と身長は変わってないから、着ていた服がそのまま着られる。
「お兄ちゃん、Tシャツの裾が短いからお腹少し見えるわよ」
「えっ、身長は伸びてないのに何で?洗って縮んだのかな?」
反射的に下を見たけど、お腹は見えませんでした。盛り上がった部分が邪魔なのです。うん、シャツの裾が上がったのはこれが盛り上げたからですね。
「お母さん、薫ちゃんに軽く殺意が湧いちゃったわ」
「私も。この激情は元凶にぶつけるべきよね」
お母さんと穂香の目付きと手つきが妖しい!僕にどうしろと言うのさ!
「とりあえず穂香の服を借りるとして、薫ちゃんに合う服を買わないとね」
「お母さん待った!穂香の服を借りるということは、僕に女装をしろって言うの!」
その手の趣味の人を貶めるつもりはないけど、それは勘弁してほしい。僕は至ってノーマルですから。
「女装というか、今の薫が男物を着たら男装になるぞ?」
「正論だけど、正論だけどせめてオブラートに包んで!」
この姿で男物着るよりも、女物を着た方が自然だってのは判ってはいるんだけど、感情が受け入れない。
「すぐ外には出られないでしょうから、買うのは先だとしても考えておきなさい。いずれ考えなくちゃいけないんだから」
お母さんの言う通り、この胸が引っ込まない限り避けて通れない問題だ。すぐに引っ込むはずはないから、どうするかは考えなくちゃならない。
しかし、痩せる前の僕はどれだけ太っていたんだか。これだけの大きさの胸が目立たない太さのお腹だったって事だもんなぁ。
痩せてなかったら何かしらの病気になっていたのではないだろうか。