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閑話 僕、見込まれました

 警察関係者以外立ち入り禁止の区域を出ると、居合わせた人達の視線が一斉にこちらを向きました。普通の人が立ち入れない場所から出てきたので、それは仕方ありません。


「あの姉妹可愛い!」


「下手な芸能人なんか霞むレベルだな」


 周囲がざわつく中、鳥居をくぐり神社の境内に入ります。僕たちを囲むように人垣が出来かけたその時、嫌でも注意を喚起するサイレンが聞こえました。

 遠く耳を澄ませば、聞こえるあの笛の………じゃなかった。サイレンの音はこちらに近付いてきます。


 避ける人波を掻き分けて、救急車は鳥居の前に横付けにされました。すぐに救急隊員が下車して、ストレッチャーを降ろし境内へと消えて行きます。


「参拝者に急患でも出たのかな?」


「薫、穂香、体調が少しでも悪くなったらすぐに言うのですよ」


「「はーい」」


 素直に返事する僕らを見て、周囲の人達はほっこりとした笑顔を浮かべていました。

 そこに、ストレッチャーを引いた救急隊員が帰ってきました。ストレッチャーの上には、紅白の衣装を着た女性が横たわっています。


「参拝者じゃなく、巫女さんが倒れたのか」


「掻き入れ時だけに、体力の消耗も激しいのでしょうね」


 神社にしてみれば、大晦日から三ヶ日は年に一度の儲け時なのです。お守り等を売る巫女さんの疲労は激しいものとなるのでしょう。


「大淀、しっかりして!」


「リシリュー、ごめん。後はお願いね」


 ストレッチャーに付き添う女性は、金髪碧眼の外国人でした。神社に西洋系の外国人というのは、かなり違和感があります。


「リシリュー、ついて来なくて良いから舞いの方をお願いね」


「貴女以外に踊れる人はこの神社にはいないわよ。今年の奉納舞いは中止してもらうしかないわ」


「ダメよ。貴女なら踊れるわよね。お願い………」


「車出します、離れて下さい!」


 巫女さんの言葉を遮り、扉が閉められました。外国人女性を残し、救急車は走り去って行きます。


「私が踊るなんて、無理に決まってるじゃないの。私はクリスチャンなんだから。そう都合良く踊れる人なんて……いたわ!」


 凄い形相でこちらに迫る外国人女性。ものっ凄く見覚えのある人なんですけど!ダンスのレッスンでコーチに来ていた、宝塚ファンのあの人です。


「ここでカオルちゃんに会えたのは、正に神の思し召し!お願い、来て頂戴!」


 お願いと言いつつ、 腕を掴んで歩き出されたので付いていく以外の選択肢はありません。連れて行かれたのは、神社の関係者以外立ち入り禁止の社務所の中でした。


「神主さん、大淀の代わりに踊れる人を見つけて来ました!」


「リシリュー殿ナイス!早速着替えを!」


「ちょっ、ちょっと待って下さい。せめて説明をお願いしますよ!」


 当事者である僕を蚊帳の外にして話を進められても困ります。説明責任を果たして下さい。


「先程救急車で運ばれた巫女は、この後神様への奉納舞を舞う事になっていたのよ。なので、その代わりにカオルちゃんに舞って欲しいの」


「僕は舞いなんて舞った事はありませんよ。リシリューさんが代役に指名されていませんでした?」


 指名されるからには、舞えるという事なのでしょう。ならば、舞った事のない僕よりも適任な筈です。


「私は着物を着て舞った事なんか無いわよ。それに、クリスチャンの私が他の神様に舞を奉納なんて出来る訳が無いでしょう」


 宗教問題を盾にされては、こちらが折れるしかありません。しかし、まだ他にも手は残されている筈です。


「他の巫女さんはどうなんですか?一人や二人踊れる人は居ないのですか?」


「他の巫女は、殆どがバイトなんじゃよ。なので、舞うなんて到底無理じゃな」


 神主さん、人件費をケチってバイトに頼るから不測の事態に陥った時に困るんですよ!人材は余裕を持って確保しましょう。


「僕だって、着物で舞うなんて出来るかどうか分かりませんよ」


「カオルちゃん、昨日見事に着物を着こなしていたじゃない。それにダンスのレッスンで見せたあの身体能力があれば舞えるわよ!」


 昨日ちゃんと歩けていたのは、歩き方のコツを前にネットで見て覚えていたからです。ちょっと待った、何で昨日の事をリシリューさんが知っているの?


「リシリューさん、何で昨日の事を知っているのですか?」


「動画サイトで話題になってたわよ、美少女姉妹の着物姿って」


 そう言えば、昨日動画撮影してた人が結構居たのでした。まさか、昨日着物を着たのがこんな所で影響するとは………

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