僕、自分の体と向き合いました
数の暴力に負けた僕は、とりあえず風呂に入る事にしました。何だかんだいって風呂は嫌いじゃありません。
ただ、自分の太った体を見たくないので殆んど目を閉じて入っていました。なので、自分の裸を見るのは三年ぶりです。
脱衣場に入る前に洗面所の鏡が目に入ります。どう見ても女の子にしか見えません。
年の割りに背が低いのは、成長ホルモンが正しく分泌されなかったからでしょうか。
Tシャツを脱いでズボンを脱ぐために下を向きます。意識して見ると、膨らんだ胸で下を見にくくなっています。
ため息をつきつつズボンとパンツを脱ぐと、小さな息子が解放されました。当たり前の事ですが、かなり安心しました。
掛け湯をしてタオルにボディーソープを垂らします。泡立てて胴体から洗いました。
「薫ちゃんお待たせ。続きはお母さんが洗ってあげるわ」
お母さんがバスタオルを巻いて乱入してきました。反応する間もなく泡立てたタオルを取られてしまい、大人しく洗われる羽目に。これは想像よりも恥ずかしい!
「薫ちゃん、無駄毛もなくて肌も綺麗ね。羨ましいわ」
「ホルモンの異常が原因じゃないかな。たしか、男性ホルモンが強いほど毛深くなるはずだから」
男が無駄毛が無いとか肌が綺麗とか誉められて、喜んでいいものでしょうか?
「本当に、綺麗に治って良かったわ」
その言葉を聞いて、僕はお母さんが風呂に乱入した本当の理由を悟りました。
お母さんは、僕が虐めによる暴力で受けた傷が残っているかを確認したかったのです。
「大丈夫だよ、お母さん。体の傷は癒えたし、心もかなり癒されたから」
お母さんやお父さん、穂香と一緒なら僕は必ず立ち直れます。
「体は終わったわね。髪を洗うから、やり方をしっかりと覚えるのよ」
お母さんは、長々と髪を洗う際の注意事項を説明してくれました。適当にシャンプーしてリンス付けるだけじゃダメなんですね。
洗い終わった髪をタオルで巻いて、バスタブに浸かります。横ではお母さんが体を洗っているので、見ないように目を閉じます。
「私も入るから、少し詰めてね」
「僕はもう出るから、お母さんはゆっくりと浸かってて」
止めようとするお母さんの手をすり抜け、浴室からの脱出に成功しました。
下着を着て、半袖のシャツと短パンを着てリビングに。ソファーでは穂香が冷やした笹の葉茶を飲んでいました。
「お兄ちゃん、色っぽい。その色気、一割でいいから頂戴」
「どうやって分けろと言うんだ?」
呆れて答えに窮した僕に、穂香は抱き着いて来ました。
「このフニフニがっ、このフニフニが妬ましい!」
「兄の胸に顔を埋めるな!顔を細かく動かすんじゃない!」
穂香を引き剥がそうと苦戦していると、お母さんが風呂から上がってきました。
「ふふっ、仲が良いわね」
「生暖かい目で見ていないで、剥がすのを手伝ってよ!」
「はいはい。穂香、いい加減にしないと、薫ちゃんに嫌われるわよ」
「はーい。でも、お兄ちゃんに抱きつくと柔らかくて気持ちいいのよね」
嫌われるよりは格段にいいけど、こうまで引っ付かれるのも困ってしまう。
だけど、三年のブランクを感じない程自然に話してる。こんな体になったら戸惑ったり、悩んだりしそうなものなのにそれもない。
「穂香、ありがとうな」
過剰なスキンシップで悩む暇を与えないようにしている。そんな心遣が嬉しくて、つい穂香の頭を撫でてしまった。
「んにゃっ、お兄ちゃんがデレた!これは今がチャンス!」
叫ぶが早いか、穂香は再び抱きついてきて僕の胸に顔を埋めた。
「薫ちゃん、今度は助けないわよ。自業自得ですからね」
「お母さん、そんな無情な事を言わないで!ヘルプ、ヘルプミー!」
僕の魂を込めた叫びはお母さんの下に届く事はなく、一緒に寝ようとする穂香を引き剥がすのに多大な労力を要しました。
こうして、僕の濃すぎる一日は終わりを告げました。