僕、癒し要員になりました
アトランタの三人に僕の性別を打ち明けてから一ヶ月が経ちました。あれを切っ掛けに、僕は女性芸能人の人達にアトランタと同じ説明をしてきました。女性限定なのは理由があります。男性芸能人を差別している訳ではないですよ。
あの後もテレビ局からの出演依頼攻勢は続き、今なお衰える気配を見せません。しかし、その理由が当初とは変わってきていました。
僕との共演を、女性芸能人の人達が要望しているらしいのです。そうなった理由は、アトランタの三人。彼女らが、僕の抱き心地や撫で心地を自慢しまくったそうです。
それを聞いた女性芸能人の皆さんが、共演時に挨拶に行くと膝に乗せようとしてきました。
皆さん僕を女の子だと思っています。僕を膝に乗せて、後で男だとバレたらマズイなんてものではありません。なので、その度に本当の性別とそうなった理由を説明してきました。
流石に男性芸能人は僕を膝に乗せようとはしなかったので、説明の必要が無かったのです。そのため、女性芸能人だけにカミングアウトする事になりました。
「はぁ、やっぱりカオルちゃんの癒し効果は絶大ね」
「ちょっと時雨、五分経ったわよ。交代してよ!」
そう回想している現在も、僕はアトランタのメンバーに代わる代わる抱き締められています。
「僕なんかを抱き締めても、気持ちいいとは思えないのですが………」
逆に、外見は女の子で中身は男の子なんだから気持ち悪いと思うのですけどね。
「触ってるだけで心安らぐし、離せなくなる程に癒されるわよ」
「他の人達も同じ反応したんでしょう?カオルちゃんの癒し効果に疑う余地は無いじゃない」
「自慢しまくった私達が言うのもなんだけど、皆見事に嵌まったわねぇ」
女性芸能人の皆さん、男だと言ったにも関わらず一人の例外もなく僕を膝に乗せて撫でるんです。外見が女の子だから、抵抗が薄いのですかね。
「カオルちゃん、次の仕事一緒に来ない?歌番の生放送なんだけど、ゲストということで」
「僕、皆さんみたいに歌えませんから。歌えないのに歌番に出るなんてマズイですよ」
断っても未練を残すアトランタの三人。だけど、長門さんが強引に引き剥がして事務所へと戻りました。これから社長を交えての戦略会議です。
「「「どうしよう………」」」
始まって早々に、三人揃って頭を抱えてしまいました。現状、僕はバラエティー番組だけに出演しています。しかし、特に何かをしている訳ではありません。
気の聞いた話で盛り上げるでもなし。ボケや突っ込みで笑いをとる訳ではなし。歌や踊りを披露するでもなし。女性芸能人の方々に愛玩され、時たま話に加わる程度です。
「我ながら、個性も何もあったものじゃないですね。視聴者から叩かれていないのが不思議で仕方ないのですが」
僕みたいのが番組に参加していたら、ネットとかで叩かれるのが普通です。でも、何故か掲示板等で非難される気配がありません。
「カオルちゃん、存在自体が凄い個性的だからね?」
「こういう言い方は嫌かもしれないけど、カオルちゃん何もしなくても居るだけで視聴率稼げてるわよ」
僕がゲストに行くと、必ず視聴率が上がってるらしいです。なので、最近はレギュラー化の打診も増えているとか。
「でも、このままという訳にはいかないですよね。外見だけのタレントなんて、すぐに厭きられて干されるのがオチですよ」
「じゃあ、歌を出す?カオルちゃんの歌唱力なら充分過ぎる程にいけると思うけど」
前よりは増えたとはいえ、僕の体力はまだまだ少ないです。振り付け付きで歌うには、まだ不安があります。
「作詞・作曲の依頼は出してあるから、それはいずれやる。だが、現状ではどうしようもない。お笑いなんて、もっての他だしな」
儚い静かな女の子という設定なので、お笑い方向には舵をきれません。
因みに、僕の性別や虐められていた過去は話した女性芸能人から漏れていません。なので、世間では僕の性別は女の子だと思われたままです。
「事務所を超えた女性芸能人の厚い支援もあるし、様子見しようか。もう少し体力がついたら、歌と踊りを武器にしよう」
戦略会議は、最終的にそう決定されました。しかし、僕は後に予想外の仕事を受ける事になるのでした。