僕、トーク番組に出ます
ダンスのレッスンをやった翌日、僕と長門さんは社長室に呼ばれました。次の仕事が決まったみたいです。
「さて、カオル君、次の仕事だが………」
社長さんはサングラスをかけて机に両肘をついて、指を組んでいます。どこかで見たような姿勢です。
「社長、お仕事の話なのだから、もう少し真面目にやりましょうか?カオルちゃんは地球外から来た使徒と戦ったりしませんよ?」
「痛い痛い痛い!仮にも社長にこの仕打ちは酷くないか?」
即座に駆け寄った長門さんは、見事なアイアンクローで社長さんの顔を締め付けました。こめかみが歪んでいますが、止めた方が良いでしょうか?
「ふう、酷い目にあった。カオル君こういうネタが好きそうだからやったのだが………」
「嫌いとは言いませんが。それで次の仕事はどんな内容でしょうか」
脱線していきそうだった為、本題に話の流れを変えましょう。まだ仕事の話をしていないのに疲れてしまいました。
「次もテレビの仕事だが、よくあるトーク番組だ。複数の中の一人だから、前回よりは楽だろう」
「芸能人並べて喋らせる、手抜き番組ですね。カオルちゃんをあんな番組に出したくありませんが、仕方ないでしょう」
長門さんがいつになく辛辣です。あの手の番組が手抜きだという意見には賛成なので、気持ちはわかります。
「出るにあたって気を付ける事とかはありますか?話してはいけない内容とか」
「事務所的には、基本的にNGはない。聞かれるのはカオル君本人に関する事だろうから、性別を含めてどこまで話すかはカオル君に一任する」
事務所からの制限は無しですか。お父さんとお母さんからも、テレビで話す内容は自由だと言われています。どこまで話すかはその時の流れ次第ですね。
そして一日空いた二日目、僕は長門さんと収録するテレビ局を訪れました。まずはプロデューサーさんに挨拶します。
「はじめまして、武蔵芸能の新人のカオルです」
「今話題のカオルちゃんに来てもらえて嬉しいよ。カオルちゃんはサプライズゲストということで他の出演者や司会者にも内緒にしてあるから」
他の出演者の方々に内緒なのはともかく、番組を進行させる司会者さんにも内緒とは驚きましたが、理由を聞いて納得です。
うちの社長が片端から出演依頼を断っている為、オファーが通らない前提だったそうです。
「そういう訳だから、挨拶回りはしないでほしい。ADをつけるから、時間まで控え室で待っていてくれ」
プロデューサーさんに呼ばれて来たADさんに連れられ、控え室の一室に通されました。途中、チラチラと僕の方を見ていた事は見なかったことにします。
「カオルさん、スタンバイお願いします」
三十分程で呼ばれたので、先程のADさんの案内でセットの裏に。セットの向こうでは、司会者さんが出演者の紹介をしていました。
「この声、聞き覚えがあるような………サスケハナのお二人ですね」
お二人に会うのはコマーシャルの撮影以来です。まあ、あの時は私は走っただけなので会ったとは言えないかもしれません。
「それでは今日のお題を………えっ、もう一人ゲストが居る?」
「全員揃ってますよね?まだ来てない人は挙手して下さい」
「来てない奴が、どうやって挙手するんだよ!」
ADさんが出した「ゲストもう一人」のフリップを見たサスケハナのお二人は、さして慌てずに番組を進めていきます。
「何処の誰かは知らないけれど、そのゲストさんに登場してもらいましょう。ゲストのかた、どうぞ!」
サスケさんの声に合わせて、セットの入り口にスモークが焚かれました。同時にADさんに背中を押されたので、セットの表に向かい歩きだします。
さあ、二度目のテレビ出演。上手く乗り切りましょう。