僕、踊りました
「カオルちゃん、動きやすい服装をとは言ったけどそれは色気がなさ過ぎるわよ」
「長門さん、ダンスのレッスンに何を期待してるのですか?それに、僕は男です。色気なんてありません」
今日は一日ダンスのレッスンをする事になっています。なので、予約を入れたダンススタジオでジャージに着替えて講師の方を待っています。
「カオルちゃん、寝言は寝てから言うものよ。ジャージの上からでも強烈な存在感を主張する、この霊峰に色気がないと言うのかしら?」
「ちょっ、わかりました!わかりましたから、揉むのは止めて下さい!」
下から掬い上げるように、両手で揉まれると変な気分になってしまいます。
「えっと、私も参加したいのだけど片方譲ってくれないかしら?」
「ダメです。カオルちゃんの胸は両方私の物なのです」
「これ、長門さんの物じゃないからね?僕の物ですよ。いらないけど」
最後の一言を聞いた長門さんと乱入者の女性から、冷たい視線を投げ掛けられました。男の僕には不要な物なのだから仕方ないでしょう。
乱入した女性は金髪碧眼で、整った顔立ちはエルフを彷彿とさせます。胸部装甲の厚さも、テンプレなエルフに似ていました。
「カオルちゃん、この人が今日の講師のリシリューさんよ」
「はじめまして。ダンスの講師をしているリシリューです。一時間でいいから揉ませてもらえないかしら?」
「「お断りします」」
大きいとはいえ、男の胸ですよ?こんなの揉んで楽しいのでしょうか。僕には理解出来ません。
「残念ですが、また後でお願いします。カオルちゃんはダンスを習った経験はありますか?」
「いえ、ありません。初めてです」
引きこもっていたので、ダンスを習う機会などありませんでした。ネットの動画では色々なダンスを見てはいましたが、それだけなので言う必要はないでしょう。
「では基本からいきましょう。ダンスには、体の柔らかさが重要になります。動かない体で無理をすると怪我をしますからね。私の真似をしてみて下さいね」
リシリューさんが両手を床につけたので、僕も同様に手を床につけました。続いて両手を背中で合わせたり、爪先を頭まで上げたりしましたが全て同じ動作をこなせました。
「カオルちゃん、随分柔らかいわね。かなりのトレーニングをしたでしょう?」
「友人(掲示板仲間)に勧められてやりました。何をやるにしても柔軟は役にたつからと」
時間はいくらでもあったので、柔軟しながらネット小説を読んだり動画見てたりしていました。その成果が出たようです。
「では次にいきましょう。実際に踊ってもらいます。踊れる物はありますか?」
「踊りと言えるかは微妙ですけど、やりますか?」
「どれくらい体が動くのかの確認なので、どんな物でも構いません」
体が動くのかの確認とはいえ、今僕ができる全力を出しましょう。目を閉じて、動画で見た動きを思い出します。
足の運び、体幹の移動、腕の動きを制御して、爪先から指先まで無駄のない動きを意識します。
「………こんなところです。リシリューさん、長門さん、どうかしましたか?」
踊りを終えると、二人は呆けていて反応を返してくれませんでした。暫し待つと、リシリューさんが再起動しました。
「カオルちゃん、ダンス習ったこと無いって言ったわよね?」
「はい。あれは以前に見た動画を真似しただけですから。習った事はありませんよ」
真似をしたのは剣舞で、本当は両手に剣を持って踊ります。今回は持っていないので、手刀で演じました。
「本当は剣舞なので双剣を使うのですが………無いですよね?」
「双剣を備品として置いてあるダンススタジオなんて、日本には無いと思うわよ?」
でしょうね。僕もそう思います。だから素手で演じたのです。
「カオルちゃん、踊れる事もわかりましたし、レベルも高そうですけど………この後はどうします?」
困った顔で長門さんを見るリシリューさん。どうやら、今日やる予定日だった内容は終わってしまったようでした。