僕、生放送を乗り切りました
「それではカオルさん、司会者に呼ばれたらここから出て下さい」
「はい、ありがとうございます」
皆さんこんにちは。いきなり生放送に出る事になったカオルです。ADさんに連れられて、セット裏で待機していますが、心臓バクバクです。
「今日のお相手は、今話題のコマーシャルに出ている美少女のカオルさんです!」
焚かれたスモークを掻き分けてセットに足を踏み入れると、観客の皆さんから大きな拍手を頂きました。
「画面で見るより、直接見た方が可愛いですね。そちらにおかけ下さい」
指差された椅子に座り愛想笑い。この状態で、ちゃんと受け答え出来るでしょうか。
「カオルさんは注目の新作ゲーム、デュアルワールドのコマーシャルに出演されています。確か、このコマーシャルが初仕事なんですよね?」
「はい、コマーシャルに出演予定の子が出られなくなってしまって、その代役にスカウトされました」
しゃべり方はゆっくりと。話すべき事、話さない事を考えながら話します。
早差し将棋のように、と言えばわかるでしょうか。司会者さんが話している時間と、自分が話している間に思考を巡らせます。
「カオルさんが所属する武蔵芸能事務所の公式ページにカオルさんが載っていませんが、それはそのためですか?」
「はい、コマーシャルの代役を務める事しか考えていなかったので、その後の活動は未定だったのです。なので、公式ホームページにプロフィールも載せていません」
実際は、どういう方向でいくかも決まっていなかったからだけど。こうなったら出たとこ勝負で行くしかないですね。
「えー、女性に年を聞くのは無礼と重々承知はしています。しかし、避けて通る訳にはにはいかないので。カオルさんは中学生でしょうか?」
「年齢的には、今年で卒業という事になりますね」
通っていないので、卒業しませんが。お父さんいわく、通っていないけど卒業証書は発行されて、学歴として記録に載るそうです。文部省の人、お父さんにどんな説得(脅迫)されたのやら。
「えっ……中学入学ではなく、卒業ですか?」
「やっぱり幼く見えますか。僕、背が低いから……」
わかってはいますし、そう見える自覚もありますが面と向かって言われると落ち込みます。
「ああ、いえ、カオルさんは可愛いですし、成人女性を越える部分も……」
司会者さん、視線が僕の顔よりも下に向かってますね。同じ男として分からなくはないのですが、テレビの司会者がそれで良いのでしょうか?
「失礼しました。今年で卒業では、受験生ですね。芸能活動で受験に支障はありませんか?」
「体の問題で、高校には通えないんです。なので大丈夫です」
この体で通える高校、日本には無いでしょうね。男子校も女子高も共学の高校もあるけれど、男の娘の高校なんて無いでしょうから。
「そ、そうなんですね。武蔵芸能がカオルさんの出演依頼を殆んど断っているのは、それが理由ですか。カオルさんならば依頼が殺到したのでは?」
司会者さん、僕の体が弱いから高校に行けないと勘違いしたみたいです。態々と誤解を解いてあげる義理も義務もありませんから、このままでいきましょう。
「幾つかの依頼を戴いたと聞いています。詳しくは教えて貰っていません」
地雷を踏んだと勘違いした司会者さんは、この後は定番で無難な質問しかしませんでした。どうやら、番組に批難するコメントが多数寄せられたようです。ADさんが示したホワイトボード見て、少し狼狽えてました。
無事に放送を終えて、カメラのランプが消えます。やれやれ、何とか乗り切る事が出来ました。
「カオルさん、ありがとうございました。丁度昼時です、一緒に食事でも如何ですか?」
「すいません、この後打ち合わせ等の予定がありまして」
司会者さんのお誘いを、素早くセットに入ってきた長門さんが断ります。僕と司会者さんの間に体を入れて、僕を隠す形にする徹底ぶり。
「えっ、せめてラインの交換を……」
すがる司会者さんを無視してセットを出ます。あの司会者さん、普通に番組を進行してましたが実はロリコン?