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僕、初めてなのに生でした

「長門さん、初めてなのに生でって酷いです!」


「カオルちゃん、誰だって初めての時はあるのよ?」


 涙目で抗議するけど、長門さんは聞き入れてくれません。でも、初めてだから怖いんです。なのに生でなんて……


「大丈夫、カオルちゃんは初めてだってお相手も知っているし、殆んど任せてリードしてもらえばいいから」


「でも、録画ならば修正がきくのに、いきなり生放送に出るなんて!」


 昨日コマーシャルが放送されたばかりだというのに、翌日の今日生放送に出る事が決まってしまいました。いくら何でも早すぎると思います。


「サスケハナの二人がね、あのコマーシャルの反応が素だったとコメントしたのよ。それで更に注目が集まったみたいで。圧力をかわしきれなかったのよ」


「断りにくい物は出ると約束したし、出ますけど言ってはいけない事を言いそうで怖いんです」


 何をどこまで話すかは、僕の裁量に任せるとは言われています。なので、僕が男の娘だって事や虐められていたという事を話してしまっても咎められたりはしません。

 とは言っても、それらをカミングアウトするタイミングは事務所と打ち合わせた方が良いに決まってます。


「私達はカオルちゃんを縛るつもりはないわ。だから、気にせずに話して大丈夫よ。ご両親だって全力でフォローしてくれるでしょう?」


「確かに、僕がどんな内容の話をしても両親は咎めないでしょうね」


 直接虐めた連中のみならず、同学年の生徒全員と教師全員まで引っ越させた両親ですから。自分よりも僕の失言を聞いて動き、両親に制裁される人の身を案じてしまいますよ。


「ちょっと待って、カオルちゃんを縛る?動けないカオルちゃんにあんな事やこんな事を……」


「長門さん、縛るって比喩的な表現ですよね?物理的に縛るなんて勘弁してください!それと、トリップしてないで運転に集中して下さい!」


 僕と長門さんが乗った車が無事にテレビ局に着いたのは奇跡だと思う。車から降りた僕がオシリス神に感謝の祈りを捧げてしまうほど、長門さんの妄想は激しかった。


 受付を済まして出演する番組の司会者の方に挨拶に行きます。受付嬢さんが僕のとある場所を見て「ま、負けたわ……」と項垂れていたのはスルーさせてもらいました。


「おはようございます、こちらで今日出演させていただく新人のカオルちゃんです」


「カオルです、よろしくお願いいたします」


 長門さんに紹介され、頭を下げます。この業界は上下関係が厳しいらしいので、気を付けなければなりません。


「小さいのにしっかりしてるな。上から強引に捩じ込まれたからどんな奴かと思ったが、外れではなさそうか。今日は色々と聞くから覚悟しろな」


 挨拶を済ませ、割り当てられた部屋へと入ります。これから出る番組は、今注目されている人物に司会者が質問を投げ掛けるというありがちな番組です。


「長門さん、強引に捩じ込まれたって……」


「本来は別の芸人が出る予定だったらしいわ。でも、うちの社長が出演を了承したら早い方が良いってスケジュールを変えさせたらしいわよ」


 な、なんてはた迷惑な。急遽出る事になった僕もそうだけど、いきなり出演を伸ばされた芸人の人やその事務所にまで迷惑がかかるじゃないですか!


「この業界、力関係が全てなのよ。事務所の力が強ければ局は下手に出るし、弱い事務所なら無理を平気で通すわ」


 やらせが発覚したテレビ局も当初は関与を否定して強気だったのに、タレントの所属事務所が「全面戦争で良いんだな?」と強気に出たら慌てて謝罪会見したらしい。



「カオルさん、時間ですのでお願いします」


「はい、今行きます」


 ADさんが呼びに来たので、スタジオに移動します。これから三十分、生放送というプレッシャーの中で戦わなければなりません。


 もう少し段階を踏みたかったと願ってしまうのは、贅沢でしょうか?



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