僕、戸惑いました
運命の日。今日の昼から新作ゲームの宣伝が流れる。見せてもらったカードは可愛く書かれていたから、そちらは心配していない。だけど、もう一つの方が問題だ。
カードの僕とそっくりの僕を見たサスケハナの二人が驚くという内容だから、あんなに可愛く書かれた僕と現実の僕にギャップがあると意味がない。
「カオルちゃん、集中出来ないみたいね」
「どうしようもないとはわかっているけど、CMの評価が気になって」
隣で走る長門さんの指摘に、素直に答えた。今僕達は体力をつけるためのランニングを郊外の公園でやってます。芸能人は体力が基本ですから。
「私もそうだし、気持ちはわかるわ。事務所も浮わついていたしね」
上の空で走って転んでもまずいので、ランニングは切り上げる事に。汗を拭いて長門さんの車に戻る。
次のスケジュールは長門さんによる化粧の講義だったので、事務所に戻る事になりました。
車を駐車場に停めて事務所に行くと、何だか騒がしくなっていました。
「長門さん、カオルちゃん、お帰りなさい。長門さん、電話対応頑張って下さいね」
玄関から入るなり、受付のお姉さんはにっこりと笑って手を振りました。
「電話対応って、何の事でしょうね?」
「嫌な予感しかしないわね。カオルちゃん、お腹減ってない?早めの昼食を取りに行きましょうか」
何があるのかは知りませんが、長門さんは戦略的撤退を選択したようです。情報がない以上、それも有効な選択でしょう。しかし、そうは問屋が卸しませんでした。
「長門さん、戻り次第社長室に行くよう言われてます。電話も繋がらないと社長怒ってましたよ?」
「あつ、スマホ見てなかった……何よこの着信とメールの数は!」
長門さんのスマホには、社長からの着信とメールの履歴が鬼のように並んでいました。マナーモードにしたままで、ランニングの時にバッグに入れて忘れていたようです。
「これは、ほとぼりが冷めるまで……」
「逃がすと思うかな?」
長門さんの背後には、目だけは笑っていない社長さんが長門さんの肩を掴んでいました。
「カオル君も一緒に来てくれ。なに、悪い話ではないから」
社長さんから溢れる怒りのオーラと、怯える長門さんの様子を見るとそうは思えないのですが行かない訳にはいきません。
社長室に向かう途中、営業部の前を通るとけたたましい着信音と電話対応する社員さんの声が響きました。
「もしかして、電話してきた理由はアレですか?」
「もしかしなくてもアレだ。呼び戻そうと何度電話しても出やしない、メールを送っても梨の礫だ。宣伝部や経理部まで動員してるっていうのに、当の本人達はなにやってんだか」
「「すいません……」」
あの惨状を見てしまうと、素直に謝る以外の選択はありえません。あれ?あの電話攻勢は僕達が原因?
「社長、僕達が原因って、何かやらかしましたか?」
CM撮影の後は各種訓練やトレーニング位しかしていません。スキャンダルになるような事をした覚えはないし、仮にあったとしてもデビューしたてのペーペーなど無視されるでしょう。
「やらかしたって言えばやらかしたな、あのCMの反響だよ。注目されていたゲームだから、ある程度の反響はあると睨んでいたが……何でここまでになったかは見当もつかない」
「掲示板でも探ってみましょうか」
スマホを取り出して、某有名掲示板のスレッド一覧を表示しました。例のゲームについてと、CMについてのスレッドが立ってます。
「CMについてのスレッドがありますね。あっ、次が立ちました」
CMスレの消費が激しいです。最新のスレを開けると、コメントし辛い内容が次々と書かれていました。
「流石はカオルちゃん、もう熱烈なファンがついたみたいね」
「いや、ファンと言えばファンなのだろうが……これって通報した方が良くないか?」
掲示板の中では、僕は何人のお婿さんがいるのでしょう?それ以前に僕、男ですから!