僕、結果を報告しました
「ただいま」
「「「お帰りなさい!」」」
家に帰りリビングに入ると、両親と穂香が待ち構えていました。飛び付いてきた穂香を何とか受け止めます。
「CM採用になった。ついでにカードのモデルもやることになりそう」
「えっ、お姉ちゃんがカードになるの?絶対にゲットしなくちゃ!」
まだリリースされていないというのに、穂香はすでにプレーする気なようです。
「あっ、だけどお姉ちゃんのカードなら絶対に最高のレアカードよね。お小遣い足りるかしら」
ソーシャルゲームでは、レア度の高いカードは大概課金しないと手に入りません。しかも、出ない時は幾ら課金しても出ないのです。
「普通のグッズとかならば事務所から見本として貰えたりするらしいけどね。ソーシャルゲームのカードじゃ下さいとは言えないよ」
長門さんは金剛社長と密約を交わしたようですが、それを言ってしまったらねだられそうなので言いません。
「穂香、心配するな。百万でも二百万でもお父さんが出すからな。勿論、お父さんも入手するぞ」
「お父さん、何を言っているのですか!」
とんでもない事を言い出したお父さんに、お母さんが待ったをかけました。確かにうちなら百万や二百万出す余裕はあるでしょうけど、その使い途はどうかと思います。
「出るか出ないか判らないガチャに頼るより、会社ごと傘下に入れて裏から手を回した方が余程確実です!」
「「流石お母さん!」」
「流石じゃなくて、そこは止める所でしょう!」
うちには僕以外に常識人は居ないようです。僕一人で三人を止めるのはかなりキツイので、誰か助けてくれる人は居ないでしょうか?
「それは後で打ち合わせるとして、薫の仕事の時は武蔵芸能の車で移動するのか?」
「会社の社用車が少ないから、長門さんの自家用車で移動する事になるみたい」
都内での移動なら車より電車や地下鉄の方が早いだろうし、長門さんの車も余り使わないかもしれません。ド新人のタレントが社用車で移動なんて贅沢だしね。
「ふむ、薫の移動用に一台武蔵芸能に寄付するべきか。時間が無いから装甲を着けられないな。薫はドイツとアメリカではどちらが好きだ?」
ドイツで車だと、まさかベンツ?トラバントって事は無いよね。アメリカはフォードかな?どちらかと言えば、目立たないフォードの方が良いかも。
「どちらかと言えばアメリカかな」
「そうか、パンターよりエイブラハムの方が好みか。エイブラハムの方が台数もあるし、輸入は容易だな」
えっ、パンターとエイブラハムって、ドイツとアメリカの戦車の愛称だよね?
「ちょっ、お父さん!日本で戦車なんて走らせる訳にはいかないでしょう!」
「薫、都内の幹線道路は自衛隊の戦車隊が展開出来るよう強度を計算して作られているから心配いらないぞ。運輸省にもコネがあるから、ちゃんと車検も通す!」
「お父さん、問題なのはそこではなくて……」
装甲の薄い軽自動車での移動をお父さんに認めてもらうのに、二時間に及ぶ説得を必要としました。面接よりも遥かに疲れた事は言うまでもありません。
更に、すぐにCMの撮影に入る事を告げると、三人とも立ち会うと言い出しました。
「仕事と学校があるでしょう、僕の事で三人とも休みまくっているのだからダメです!」
三人の説得に、またもや二時間を費やす羽目になりました。愛されているのは分かっているし、嬉しいとも思います。ですが、少々重いと思ってしまうのは贅沢でしょうか?
「これから薫の仕事は増えるだろうし、見学に行く機会は作れるだろうから今回は我慢するか……」
お父さん、言葉ではそう言ってても納得してないよね。こっそりと見に来たりしないよね?
「うちの傘下のCMに薫ちゃんを指名すれば、堂々と撮影に立ち会えるわ!」
「よし、早速明日適当な会社を見繕って……」
「お父さんとお母さん狡い!私が見に行けないじゃない!」
「お父さん、お母さん、公私混同は止めて下さい……」
お医者様でも草津の湯でも、うちの家族の過保護はなおりそうにありません。