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僕、面接に来た筈でした

駐車場からエレベーターで十階に上がり受付で来訪の用件を話すと、受付嬢さんが案内してくれました。会議室と書かれたプレートのついたドアには、使用中の札がかかっています。


受付嬢さんがノックをしてからドアを開けると、長机が並ぶオーソドックスな会議室という感じの部屋におじさんが三人座っていました。


「失礼します、武蔵芸能の長門です。本日は代役の子役をお連れしました」


「新人のカオルです、よろしくお願いいたします」


長門さんの挨拶に合わせて、僕も挨拶して頭を下げました。上ずりそうな声を抑えるのに必死です。


「前の娘よりも可愛いじゃないか。どうぞおかけ下さい」


真ん中に座っているおじさんに勧められ、向かい合う形で並んで座りました。第一印象は悪くなさそうで一安心です。


「私が社長の金剛です」


「専務の比叡です」


「同じく専務の霧島です」


予想はしていましたが、会社のお偉いさんが勢揃いしています。

緊張で顔が少し強張ってしまいました。


お父さんとお母さんも会社の偉い人なのですが、僕の前では優しい両親といった印象しかありません。頻繁に会社を休んで部下に仕事を押し付けているので、どちらかというと残念な社会人という感じです。


「実はもう一人来る予定なのですが……」


「うわぁ、遅れた!まだ来てないよね、え?もう来てる?それってヤバくない?」


ドアの外から聞こえてきた声に、三人のおじさんは頭を抱えています。察するに、その声の持ち主が面接に参加するもう一人なのでしょう。


「武蔵芸能の人だよね、遅れちゃってごめんな。俺は開発室室長の榛名だ。よろしく」


榛名さんはドアを開けると、社長たちの席に歩きながら自己紹介しました。あれ、礼儀的にNGなのでは?


「貴様、今日は新しい子役の面接だから遅れるなとあれほど言ったよな?確かに言ったよな?体に刻み込まなくては覚えられないか?」


「社長、ギブ、ギブ!お客さんの目の前でコブラツイストかけるなんて礼儀を逸脱してるでしょ!」


お手本にしたいくらいに綺麗に決まったコブラツイストは、榛名室長に的確なダメージを与えているようです。


半死半生の榛名室長を椅子に座らせた金剛社長は、何も無かったかのように話し出します。


「武蔵芸能さんにはいきなりの子役交代なんて無茶を言って申し訳なかった。しかし、我々も曰くのある配役で宣伝を打つ訳にはいきませんので」


「それは重々承知しています。こちらこそ、タレントの管理の甘さからご迷惑をおかけして申し訳ありません」


こういうやり取りを聞いていると、大人の世界に踏み込んだと思い知らされます。


「いやあ、あれはあの子役の親がバカなだけで、武蔵さんにも落ち度はないっしょ。運が悪かっただけだって」


はい、空気を読まない軽い発言が飛び出しました。榛名室長、僕もそうだとは思うけど、それは言わないお約束という奴ではないですか?


「己は空気を読め!そして社会人としての自覚を持て!」


「しゃ、社長、頸動脈に入ってます!」


金剛社長のチョークスリーパーが、榛名室長を落としかけていました。榛名室長は声もあげれず、タップする余裕もなさそうです。


「お見苦しい所をお見せしてしまいました。これは気にせずにいて貰えると助かります」


意識があるのか無いのか判らない状態の榛名室長を見て、僕と長門さんは赤べこのように上下に首を振るのでした。


この会社、いつもこんな感じなのでしょうか。僕が抱いていた「会社」のイメージが、ガラガラと音をたてて崩れていきます。

それと同時に、感じていた緊張感も無くなっていきました。


予想外の展開に面食らったけど、それはそれで助かったから幸運なのかな。


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