僕、面接に向かいます
「カオル君、もう一つ確認したい。君はご両親の名を使う気はあるかな?」
うちの両親は、大企業である五菱商事の重役です。その息子となれぱ、色々な方面で融通を利かせて貰う事も可能です。警察にあそこまで融通が効くとは思いませんでしたが。
なので、デビューしていきなり有名企業の宣伝等に使って貰うなんていう事も恐らく可能。派手なスタートダッシュをかければ、後の活動にかなり有利となります。
「僕がお父さんとお母さんの子だと知られたら、プロフィールを隠す意味がありません。両親の影響力は極力使わない方向でお願いします」
僕の目的は、自分の立ち位置を作ること。なので、自分の力だけで勝負しなければなりません。
「「「えっ、それじゃあ可愛い薫ちゃん(お姉ちゃん)を自慢出来ないじゃない!」」
ちょっ、うちの家族は揃って何を行っているんですか!芸能人になった家族を自慢したいなんて、ミーハーな思考強かったっけ?
「薫、勘違いしないで欲しい。私達は芸能人の薫を自慢したいのではなくて、薫の可愛さを自慢したいんだ」
「そうだよお姉ちゃん、お姉ちゃんが芸能界に入っても入らなくても、その可愛さは充分に自慢出来るからね」
まあ、鏡で見て可愛い方だとは思ったけど、そこまでかな。今一その辺りがわからない。
「カオル君の可愛さとグッズ作成や販売の件は後で話すとして、取り敢えずコマーシャルのクライアントに面接に行って貰いますよ。そろそろ出ないと間に合わなくなりますから」
「あっ、私がカオルちゃんを気絶させたから……服装はそのままで大丈夫ね。まだ本調子ではなさそうだから抱いていってあげるわ」
「いえ、大丈夫です。自分で歩けますから!」
不穏な空気を察知して立ち上がると、長門さんはあからさまに残念そうな表情を見せました。やはり何か企んでいたようです。
エレベーターで地下駐車場まで降り、黄色い軽自動車に乗り込みました。
「小さい車で御免ね。社用車が少なくて、これ私のなのよ」
「普通の車って、初めて乗りました。こんな感じなんですね」
うちの車は、とても普通とは言えません。国の正式な装甲車よりも耐弾性能が優れた自家用車なんて、普通車とは言えないでしょう。
「あれ、カオルちゃんの家には自家用車無いの?お金持ちの家だから何台も有ると思ったのに」
「一台ありますけど……あれを普通車とは呼べないと思います。見た目は普通なんですけどね」
遠い目をしてしまったからなのか、長門さんはそれについて踏み込んできませんでした。説明しても信じて貰えるか疑問だったので、凄く助かります。
「面接で合格を貰ったら撮影の日程の詰めに入ると思うけど、ダメな日とかはあるかな?」
「僕に仕事以外の予定は無いので、僕の都合は気にしなくても大丈夫です。面接には宣伝会社の人も来るのですか」
ゲームの制作会社に行くとは聞いていたけど、宣伝会社の人も来るとは聞いていませんでした。聞いていても何も変わらないから良いのですが。
「珍しく、自社制作なのよ。その方が話が早くて助かる反面、何かあったらすぐに問題にされるわ」
「実際に前任の子役の人は降ろされてますからね。気に入って貰えるように注意します」
採用されるかどうかで、武蔵芸能の浮沈まで繋がります。気合いを入れて臨まなければなりません。
「もう一度確認するけど、カオルちゃんが男の娘だと話して良いのね?」
「はい、このままの僕が立ち位置を作ることが目的ですから。隠すつもりはありません」
今日の服装は、純白のワンピースにオプションで純白の日傘。お母さんと穂香、何を考えてこのチョイスをしたんだか。ワンピースは良いけど、日傘なんて要らないと思う。
車は高層ビルの地下駐車場に滑り込み、地下三階で空きスペースを見付けて停車しました。
「長門さん、これ邪魔なので車に置かせて下さい」
「ダメよっ、日傘は持っていく必要があるわ!」
屋内に入るのに、何故日傘が必要なのでしょうか。取り敢えず言われた通りに持って行きましょう。クライアントの方々に不審がられなければ良いのですが……
面接までいかなかった!
次回こそは面接となります。