僕、土下座されました
「申し訳ありませんでした。どうかチェンジだけは、チェンジだけは勘弁してください」
皆さんこんにちは。見た目は女の子、中身は男の大和薫です。目が覚めた僕が目にしたのは、土下座して赦しを乞う長門さんの姿でした。
「えっと、これからは抱きついたりしないようにしてくれますか?」
長門さんの胸部装甲は、僕より少し薄い程度です。顔が埋まるのに充分な厚みと柔らかさを持つ為、窒息の危険性があります。
「抱きつく時は、力加減を考えます。なので、どうかお慈悲を!」
「いや、力加減以前に、抱きつかないようにしてください」
どうやら長門さんは思考よりも先に体が動く人のようなので、行動自体を慎んでもらう必要があるようです。
「………消費税が撤廃されるまでには達成するよう努力します」
「それって、努力する気はないっていうことですよねぇ!」
確かに消費税撤廃を公約に掲げた政党はいくつもあったけど、今はもう影も形もないよね。どれだけ公約破ってもお咎め無しなんだから、政治家って適当な商売だよね。
「まぁ、悪い人じゃなさそうですし長門さんにお願いします。僕はこの若さで窒息死はしたくないですから、気を付けて下さいね」
捨てられそうな子犬を彷彿とさせる、訴えるような眼差しに負けました。抱きつかれないよう、僕も用心すれば大丈夫でしょう。
「僕っ子!ロリータで巨乳で僕っ子なんて、どこまで私の嗜好を貫くんですか!」
えっ、長門さん女性ですよね?それでロリコンって……武蔵社長の方を見ると、処置無しという感じで首を振りました。
「長門さん、抱きつくのはダメですよ。僕だって恥ずかしいんですから」
またもや抱きつきそうになった長門さんに、先に釘を刺します。ついでに回避出来るようソファーから身を起こしました。
「女同士なんだし、恥ずかしがる事はないわよ。それに、子供のうちは大人に甘えなさい。そうしてストレスを軽減させるのもマネージャーの仕事よ」
「長門さん、色々な事情があってその子は男の子なんですよ。それと年は来年で十六です」
お母さんが僕の性別と年齢を暴露しました。思春期真っ只中の男子とわかれば、抱きつくような真似はしなくなるでしょう。お母さん、ナイス判断です。
「男の娘!それなら法的に結婚出来るじゃない、益々好都合!」
ダメでした。それどころか、更に暴走しそうな勢いです。しかし、それを予防する一手を繰り出した人がいました。
「堂々とタレントに手を出そうとするんじゃない、庶務課に配属変えするぞ!」
「社長、痛いです!たらいって結構痛いんですよ!」
何処からともなく落ちてきた金だらいが長門さんの頭を直撃すると同時に、武蔵社長が長門さんを叱りました。あの金だらい、何処から出てきたのでしょう?
「お姉ちゃん、あのマネージャーさんで本当に大丈夫なのかなぁ」
「穂香、僕も同じことを思ったよ。だけどな、自然に隣に座るのは良いとして抱きつくのは止めてくれ」
胸の谷間に埋まった顔が微妙に動くのがくすぐったい。女の子が男の子の胸の谷間に顔を埋めて、何か楽しいのだろうか。
「こんな変態ですが、能力は折り紙つきですよ。ただ、その変態さで残念な事になっていますが……」
「社長酷い!私はただ、幼くて胸が大きい僕っ子が好きなただの一般人です!」
それの何処が一般人かと、声を大にして問い詰めたい。多分、ここにいる全員がそう思ったはず。
「……暫定的にマネージャーは長門君として、芸名はどうしますか?実名やプロフィールを出さないなら考えないと」
「芸名は、カタカナでカオルでお願いします。同じ名前でないと、呼ばれた時に反応出来なさそうですから」
こうして、僕っ子男の娘なタレントカオルが誕生しました。社会経験のない僕が、生き馬の目を抜くような芸能界で活動出来るのでしょうか?