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僕、契約しました

翌日、僕は両親に付き添われて武蔵社長の会社に契約を結びに行く事になりました。毎度仕事を押し付けられる部下の方々には、心のなかで頑張れとエールを送っておきましょう。


「で、穂香は学校に行かなくていいのか?」


「お姉ちゃんの人生の岐路に、呑気に学校なんて行けないわ!」


心配してくれるのは有難いけど、良いのかな?両親が何も言わないし、良いという事にしておきましょう。


到着した事務所は、五階建てのありふれたビルでした。岡部店長の店の例があるから、見た目で判断は出来ませんがあれは特殊な例外でしょう。


入り口の受付で名前と用件を告げると、受付のお姉さんが案内してくれました。エレベーターで三階に上がり、社長室とプレートに書かれたドアをノックして入ります。


「おお、お待ちしていました。ささっ、どうぞこちらへ」


書類に目を通していた武蔵社長は、脇にある応接セットへと誘います。ソファーに座ると、すぐにお茶とお茶菓子が運ばれて来ました。


定番の挨拶と世間話をしたあと、本題の契約に入ります。武蔵社長がテーブルに置いた契約書には、昨日話した内容が遺漏なく記載されていました。


「訓練もしていない新人には破格の待遇だが、本当に良いのだな?」


「勿論ですよ。薫君ならば絶対に売れっ子になります。その将来性を考えたら、これでもまだ足りない位だと思っています」


唾を飛ばす勢いで熱弁する武蔵社長ですが、僕のどこにそんな価値があるのかわかりません。


「正直言いますと、穂香さんもうちでスカウトしたいのです。如何ですか?」


穂香なら可愛いから間違いなく人気が出るでしょう。穂香も一緒にタレントをやるのかな?


「私は無理無理、やるよりも見ている方が楽しいわ。お姉ちゃんの追っかけをやるの!」


穂香よ、態々追っかけにならなくとも毎日顔を合わせるんだよ?


「それば残念です。ではこことここに署名と捺印を」


空白になっていた僕の署名欄に名前を書いて印鑑を押します。使うのは僕用に作られた実印。お父さんがこんな事もあろうかと作って登録しておいてくれたそうです。


「こちらが控えになります。薫君、これから宜しくお願いしますね」


「こちらこそ宜しくお願い致します」


僕は芸能界どころか社会に出るのも初めてです。武蔵社長に迷惑をかけないように頑張らないと。


「では薫君に、つくマネージャーを呼びましょう。ああ、長門君に来るように……」


社長が電話機をとり、内線でマネージャーさんを呼ぼうとしたその時、派手な音をたてて社長室のドアが開きました。


「無事に契約出来たんですね!ああっ、話しに聞いていたよりも格段に可愛いわっ」


ドアから乱入してきたお姉さんは、ソファーに座る僕に抱きつきました。


「社員教育がなってなくて、申し訳ありません」


慌てて頭を下げる社長。自社の社員が、初対面でいきなり抱き付くようなまねをしたのだから正しい反応でしょう。


「まあ、薫ちゃんは可愛いから仕方ないわ」


「うん、お姉ちゃんの可愛さは最強。免疫無かったら抱きつきたくなるわ」


うちの女性陣は長門さんを擁護する構えです。お父さんも無言で頷いて同意しています。とりあえず誰か剥がしてくれませんかね、顔が胸に埋もれて苦しくなってきました。


声が出ず、助けも入らないので長門さんの腕を掴み、手探りで腕のツボを探して押します。右腕の無力化に成功したので、左腕を両手で離して離脱に成功しました。


「ぷはっ、窒息死するかと思った。誰も助けてくれないんだもの」


両親と穂香、社長は揃って僕から目を反らしました。


「改めて紹介する、薫君のマネージャーをやる予定の長門君だ。……チェンジするかね?」


「社長、そんな殺生な!あの子を遥かに上回る新人と聞いて、夜も眠れない程に楽しみだったんですよ!」


少し……いや、大分不安も残るけど、「ではチェンジでお願いします」と言える雰囲気ではありません。


「長門さんにお願いします。長門さん、いきなり抱きついたりしないでくださいね」


「薫ちゃんありがとう、大好きよっ」


感極まった長門さんは、またもや抱きついてきました。再び柔らかい胸に顔が埋まり、意識が遠退きます。僕、死亡保険にも入っておくべきでしょうか……



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