閑話 カボチャの祭典 終編
談笑しているグループに交ざる勇気はないので、単独でいる人に話しかけようと伺っていました。しかし、逆に声をかけられてしまいました。
「おや、可愛いお嬢さん。私の眷族にならないかね?」
背後からの声に振り返ると、二本の牙を覗かせたダンディーなおじ様がグラスを片手に微笑んでいました。
「こんばんは。折角のお誘いですが、誰かの眷族になるつもりはありません。友人では如何でしょうか?」
「はっはっは、伯爵が振られたか。ならば俺と海底の散歩なんかどうかな?」
バンパイアのおじ様の誘いを断ると、顔を鱗がびっしりと覆った青年が話しかけてきました。耳の所にエラらしきものが付いているから、マーマンかな。
「私は人間なので、海底では息ができないのです。御免なさいね」
「ええっ、貴女人間なの?ドワーフだと思ってたのに!」
僕の断り文句を聞いたのか、エルフの女性が声をあげました。お約束通り耳が長くスレンダーな美人さんです。
「人間って事は、まだ成人してないのよね。それなのにこの胸なの!」
ああ、矢張りそこにこだわるのですね。僕も好きでこんな大きさにした訳ではないのですが。
「それと、ついでに僕は男なんです。そんな体型と格好してますが……」
考えてみたら、僕は男なのですからこの格好、すなわち女装が仮装とも言えますね。
「あら、こんなに可愛いのに男の子?お持ち帰りしたいわねぇ」
「本当に。ねえ、爬虫類系の女って好みかしら?」
右腕を下半身がお魚の女性に。左腕を下半身が蛇の女性にしがみつかれました。マーメイドさんとラミアさんですね。街中なら十人中十人が振り返る美人さんなマーメイドさんは貝殻で、ラミアさんは柔らかい鱗で豊満な胸を隠しています。
それが両の肘に押し当てられ、理性が崩壊の危機に晒されています。何とか意識を別に移さないと。
「そ、それにしても見事な尻尾ですね」
マーメイドさんもラミアさんも、各々の尻尾が滑らかに動きとても作り物とは思えません。本職の人が作ったのでしょうか。
「あら、ありがとう。このヒレは自慢なのよ」
「私の鱗は触り心地もいいわよ。好きに触ってもいいわ」
ラミアさんの尻尾が伸びて、僕の足に絡みつきます。本物だと言われても信じてしまいそうな感触です。
「ねえねえ、私はどう?今は小さいけど、もう少ししたら大きくなる魔法も使えるようになるわよ」
可愛いピンクのドレスを着た妖精さんにもアピールされました。僕、モテ期到来です。しかも、妖精さんも含めて皆最上級の美人さん。
まあ、妖精さんは身長十五センチ程という欠点がありますが。その代わり、空を飛べるという特典があります。
「岡部店長、説明お願いします!」
これ、絶対に岡部店長の所の超科学が絡んでるに違いありません。他の人はまだしも、この妖精さんは仮装ではあり得ません。
「あはは、何処でも行けるピンクのドアを作っていた班がミスってね。異世界に繋がったのよ。友好的な人達だったし、今日はハロウィンだから招いても問題ないかなぁって思ったの」
そ、それじゃああのサイクロプスやジャック・オー・ランタン、コボルトも本物ですか。
理性の限界を越えて、僕は目の前が暗くなり意識を手離しました。この体だけでも受け入れるのに精一杯なのに、異世界からの御客様とか無理です。
「ん……ふあぁっ」
目が醒めると、見慣れた天井が目に入りました。何の変哲もない朝の風景です。
「ラミアさんやマーメイドさんに気に入られるなんて、変な夢を見たなぁ」
これが漫画や小説ならば、夢オチなんて読者に非難されそうです。
顔を洗いに洗面所に行くと、風呂場から水音が聞こえます。何かと思いドアを開けると、バスタブにマーメイドさんが浸かっていました。
「あ、長時間陸上にいられないのでお風呂場お借りしてます」
「あ、そうなんですね。ごゆっくり」
ドアを閉めた僕は、頭を抱えて座り込みました。どうやら夢ではなかったようです。
「考えても仕方ない。なるようになるだろう」
現実逃避という選択を選んだ僕は、二度寝する事に決めました。次に目覚めた時は、この夢から覚めている事を願って。