閑話 カボチャの祭典 前編
紅葉深まり、美味しい食材が数多く出回る秋。十月最後の今日は、特別な意味を持っています。
「お姉ちゃんお早う、トリック オア トリート?」
「お早う穂香、可愛い魔女さんだね。はい、お菓子だよ」
僕は昨夜のうちに用意しておいたお菓子の袋を魔女の格好をした穂香に渡しました。
「むうっ、なんでお菓子を用意してあるの?お姉ちゃんにイタズラしたかったのに!」
「製菓会社の株を持っていると、送られてくるんだよ。株主優待万歳!」
ネットの人達が薦めてくれた銘柄の一つでした。株価の上下による利益よりも、優待を期待しての購入は思ったよりも色々貰えて楽しいです。
「お姉ちゃん、もうご飯だよ。早く降りなくちゃ」
穂香に腕を引かれてリビングに行くと、ウェアウルフのお父さんが新聞を読んでいました。
「お父さんお早う。その姿で新聞読んでる姿は違和感が凄いね」
「お早う、薫。折角のハロウィンだからな。楽しまなければ損だろう」
日本人って、真面目な民族性の割にはノリがいいよね。楽しいから文句はないけど。
「お父さんとお母さんは会社のハロウィンイベントに顔を出さなければいけないの。薫ちゃんはどうする?」
背中にコウモリの羽を生やした、サキュバスのお母さんに聞かれました。羽がチョコチョコ動いていますが、まさか本物の羽ではないですよね。
「僕は朝イチで本屋さんに行ってくるよ。買いたい本があるから」
今日は、愛読しているサイト「小説家になるぜ!」で掲載当初から読んできた「ハズレ判定から始まっちゃったチート魔術士生活」の発売日です。
予約はしてあるので買いそびれる事は無いのですが、ファンとしては開店と同時に入手するべきでしょう。
一部の専門店では早売りをしているし、特典がつくらしいのですが、この姿で人が沢山集まるそういったお店に行く勇気はありません。
「そうか。お父さんとお母さんは出来るだけ早く戻るから、帰ったらパーティーをしような。お土産も持って帰るから」
「ありがとう、お父さん。でも、無理はしないでね」
最近、僕絡みの問題で両親共に仕事を放り出して付き添ってくれています。嬉しいのですが、仕事を押し付けられる部下の方々の苦労を思うと申し訳なくなります。
仮装したまま学校や仕事に向かう両親と穂香を見送ります。穂香も学校でハロウィンイベントをやるらしく、仮装しての登校を認められているそうです。
「お姉ちゃん、行ってきます。帰ったらイタズラさせてね」
「ちょっと待て穂香、その箒に乗って行くつもりか?」
玄関を出た穂香は、宙に浮いた箒に跨がっていました。リアルに浮く箒なんて、どこから持って来たんだ!
「お姉ちゃん、魔女が箒に乗って空を飛ぶのはお約束だよ。例外的にデッキブラシに乗って飛ぶ魔女もいるみたいだけど」
「ああ、あれは名作だった。挿入歌も思わず口ずさむ名曲ばかりで……って、違うだろ!本当に空なんか飛んだら不味いから!」
常識で考えれば、今の日本に空飛ぶ箒など無いのです。騒ぎになることは目に見えています。
「そうだぞ穂香、空を飛ぶには飛行計画を管轄する管制センターに提出して、認可を得なければいけないんだ。勝手に飛んだら逮捕されるよ」
「そうなんだけど、それもそうなんだけど突っ込む所が微妙に違うよお父さん!」
お父さんの言い分も正しいです。でもね、まずは飛行手段が箒だって事に突っ込みましょうよ!
長くなるので、前後編に分割しました。後編は夕方頃に投稿する予定です。
但し、これから「ハズレ判定から始まったチート魔術士生活」の書籍版を読むので遅れる可能性も……