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僕、着せ替え人形になりました

「ううっ、落ち着かない」


「大丈夫、その内慣れるわよお姉ちゃん」


奮闘努力の甲斐もなく、今日も涙の……じゃなかった、上下を女性下着に付け替えた薫です。

お母さんと穂香の攻撃に、友軍の筈のお父さんは戦闘放棄。孤軍奮闘するも敢えなく敗れました。


「これで目的は達したよね。早く帰ろう」


「何言ってるのよ、薫ちゃんの新しい服を買わなくちゃいけないでしょう?」


僕としては、早く帰ってこの下着から解放されたいのだけど。どうもそうはいかないようです。


「薫、諦めろ。女性の買い物は簡単には終わらんよ」


お父さん、目が死んでます。一体、過去に何があったんですか!知りたいけど、知ってしまったらいけないような気がします。


次に連れて行かれたのは洋服屋でした。色取り取りの華やかな服が展示され、男物の服屋とは雰囲気が根本的に違います。


「すいません、この子に合う服を作って欲しいのですけど。それと、繋ぎでサイズ調整出来るものも」


「お母さん、出来合いの服で十分だよ?」



売っている服を買うのではなく作って貰うと、余計にお金を使う事になります。お金に余裕があるのは知っているけど、服にお金をかけようとは思いません。


「お姉ちゃん、出来合いの服なんて着たら大変だよ?」


「身長に合わせれば胸がキツくて強調されるし、胸に合わせればダボダボになるわ」


身長に比して胸が大きいからそうなるのか。男ならそんな配慮は必要ないのにな。


「そういう訳だから、大人しく採寸されなさい。店員さん、お願いします」


試着室に連れて行かれ、またしても採寸されました。しかも、今回はバストだけではなくウエストとヒップもです。

採寸する店員さんが、作業の間体型が良いと誉めてくれました。でも、男の僕には誉め言葉にはなりません。

ちなみに、息子は小さい上に羞恥で縮こまっていたのでバレませんでした。


「お客様でしたら、この辺りがお似合いかと……」


「あら、いいわね。これも……これも似合いそう」


「お母さん、これも良いわよ!」


お母さんと穂香、店員さんが次から次へと服を積んで行きます。

その熱気に圧され、口を挟む事が出来ません。


「さあ薫ちゃん、試着しましょうか」


「お母さん、まさかそれ全てとは言わないよね。穂香、そのデジカメは何の為に持っているのかな?」


「当然全て試着してもらうわよ」


「お姉ちゃんの姿を記録する以外に、何の使い道があると言うのお姉ちゃん」


そうですか、全て試着して撮影するのは決定事項ですか。助けを求めようとお父さんの方を見ると、あからさまに視線を逸らされました。


「さあ薫ちゃん、試着しましょう」


「……はい」


その後の記憶は定かではありません。只管服を着て脱いで服を着て脱いで服を着て脱いで……僕は今日、無我の境地に至ることが出来ました。


「では、これらのサイズ合わせをお願いしますね」


「お任せ下さい、完璧に直して見せますとも!これらの服が完璧にフィットした薫ちゃんを見るためなら、二日や三日の徹夜くらい喜んでやりますとも!」


「店員さん、徹夜なんてしないで!急ぐ訳じゃないんだから、無理はしないで!」


カードによる支払いを済ませ、店から出るとベンチにお父さんが座ってました。三時間位かかったんだけど、お父さんずっとここで待ってたんだ。


「お父さん、待たせて御免なさい」


「薫、謝る事はない。女性の買い物に付き合うならば、此くらいは序の口だからな」


三時間待つのが序の口ですか。お父さん、僕はお父さんを尊敬します!

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