僕、TSしました
ジリリリリリリリ
「う・・・ん、朝か」
けたたましく鳴る目覚まし時計を止めると、両手を伸ばして大きく伸びをする。
「あれ?袖が出てないな。もう伸びたかな?」
ほぼ開いていない目をパジャマの袖で擦り、ベッドから降りようとして足を下ろした。しかし、足の裏が床に着く感触は伝わって来なかった。
「え?ちょっ、足が着かない?!」
足を確認しようと反射的に下を見た俺の視界に映ったのは、パジャマを大きく盛り上げる二つの膨らみだった。
「はぁぁぁぁ?胸がある!しかも縮んでる!」
額に手を当て・・・と言いたい所だが、袖から出ていないので額に袖を当てて昨夜寝る前の事を思い出す。
「確か、次の仕事の為にと栄養ドリンクを渡されて寝たんだよな。その時は間違いなくイケメンなナイスガイだったはず。まさか、ラノベで定番の幼女化したっていうのか!」
「はい、カットオッケー。完璧だよカオルちゃん。文句の付けようがないね」
「ある意味、体験した出来事ですから」
察しの良い方はもうお分かりだと思いますが、僕は本当にTSした訳ではなくお芝居なのです。
「カオルちゃん、新しいお仕事よ。なんと、新作ドラマの主役に指名されたわ!」
「落ち着いて下さい。嬉しいですけど、何故そんなに興奮しているのですか?」
事務所で取材の仕事を終えたすぐ後、長門さんが興奮して捲し立ててきました。鼻息荒く迫ってくるので、残念美人がますます残念になっています。
「ラノベ原作のドラマで、好きな作品なのよ。カオルちゃんに演じて貰うのは、主役の四十才独身男性のサラリーマンよ」
「長門さん、頭を華氏零度位まで冷やして考えましょうか。僕がどうやったら中年のサラリーマンを演じられると?」
悲しいかな、僕の見た目は何処からどう見てもロリ巨乳美少女です。長門さんも依頼した監督さんも、とても正気だとは思えません。
「華氏零度って、マイナス三十度近いじゃない、そこまて冷やされたら心臓止まるわよ!それに、この物語は主人公が朝目覚めたら幼女になっていたという話だから!」
「それを先に言って下さい。中身が男の幼女って、僕なら素で演れる役ですね」
後ろから抱き締められながらも渡された台本を読みました。ざっと見ですが内容などに問題はなく、スケジュールが空いているならぱ受けても問題はないと思われます。
「スケジュールは心配しなくて良いわ、埋まっていても強引に空けるから。それにしても、また大きくなったような気がするわ」
「無理にスケジュール空けないで下さい、公私混同は社長に報告しますよ。それと、そうやって揉むから大きくなるのでは?」
どこを揉まれて、どこが大きくなっているかは明言を避けさせていただきます。うちの女性二人からも似たような文句は言われていますが、僕の意思で大きくした訳ではありません。むしろ、小さくなってほしいのです。
問題になるような内容ではなかった為、両親の許可も出てこのお仕事を受ける事となりました。
物語は、内閣調査室勤務の主人公が次の任務のために試作の若返り薬を説明なく飲まされた翌朝幼女化するというものです。見た目幼女なのに中身は男という難しい役をこなせる子役が居る筈もなく、僕にお鉢が回ってきたという訳です。
そして仕事を受諾した僕は、今日の撮影に臨んだというのが現状なのです。
「カオルちゃんが良ければ、このまま次のシーンも撮ってしまおうか」
「僕は大丈夫です。次も撮ってしまいましょう」
幼女化した僕が慌てて体を確認し、ドタバタするシーンが続くので僕さえ良ければ撮り溜めが可能です。同僚の女性が出るシーンまて撮ってしまいましょう。
「お疲れ様。順調に撮影が進んで、監督さん上機嫌よ」
帰りの車の中で長門さんに誉められましたが、宛て書きに近いキャスティングなので出来て当然だと思っています。
「そうそう、このドラマの主題歌と挿入歌もカオルちゃんにやって欲しいそうよ。頑張ってね」
「えっ、それ聞いていませんよ!いきなりすぎます」
「私も聞いたのさっきだから。監督さん、余程カオルちゃんを気に入ったのねぇ」
いきなりのお話に頭を抱えたくなりますが、事務所が受けた以上僕に否やはありません。芸能界って、思い付きで動く人しかいないのでしょうか。




