僕、運を試しました
太平洋を遥々渡り、やって来ましたアメリカ本土。ここは世界的に有名なギャンブルのメッカ、ラスベガスです。派手なネオンが瞬くカジノが立ち並ぶ、一攫千金を狙うギャンブラーの街です。
とは言っても、未成年の僕がカジノに出入り出来る筈もなく。ただお店の前を通りすぎるだけというなは寂しい限りです。
これでもネットゲームのカジノではかなりの資産を築いた自負があるので、賭け事には強い方だと思っています。
「朝霞さんとユウリさんは行かないのですか?」
司会を務めるお二人、朝霞さんとユウリさんは成人しており、カジノに入っても問題ない筈です。しかしお二人とも僕に付き合って素通りしてしまいました。
「ユウリちゃんはね、前に洒落にならない勝ち方をして出入り禁止になっているのさ。僕も一緒だったからとばっちりでね」
ユウリさんは瞬間記憶能力と類いまれなる動体視力を駆使してポーカー等で連戦連勝したらしいのです。それに恐れを為したカジノ側から出入り禁止を通達されたそうです。
「ユウリさん、一体幾ら勝ったのですか?」
「・・・三世代ほど働かなくても生きていける位、かな?」
目をそらして答えてくれたユウリさん。カジノ側の対応は相応だと思うと同時に、同情してしまったのは僕だけではないでしょう。
そんな会話をした翌日、ここに来た目的であるクイズが実施されます。僕達はバスで街から離れたら荒野に連れてこられました。
「お待たせしました。ここラスベガスで行うクイズは、恒例のあのクイズです」
「君達への出題をするのは、僕でもユウリちゃんでもありません。それを行うのは・・・あれです!」
朝霞さんが指差す空の向こうから、重低音を響かせて一機の飛行機が飛んできました。再前部から中程までにかけて繋がった細長い三角の翼に、四基のプロペラエンジンが搭載されています。その翼には、赤い丸が描かれていました。
「あ、あれは日本陸軍の九二式重爆!・・・相方が落ちたのが痛いな」
どうやら、知っているのかと聞いていた人がハワイで落ちてしまったようです。そんな悲嘆は関係ないとばかりに、飛行機の爆弾倉が開き大量の紙がばら蒔かれました。
「折り目を開くと、『A』か『Y』と数字が書かれています。Aならば僕の方に。Yならば向こうのユウリちゃんの方に来てください。番号の出題をしますので、三問正解で勝ち抜けです」
「中にはハズレの番号もあります。その時はまた紙を拾い直しとなるので注意して下さい」
これもこの番組では定番のクイズです。朝霞さんに近い場所でユウリさんの紙を拾うと余計に走らされたり、ハズレを引くと取り直しになるので運の要素も強いクイズとなっています。
「「では、ばら蒔きクイズ、スタート!」」
二人の声を契機に、僕らは走り出しました。一番近くに落ちていた紙を拾い開きます。最初はユウリさんの紙でした。先に並ばれた二人の後ろに並びます。
先着した二人は正解し、ポイントを得ました。僕も正解してポイントを取っておきたい所です。
「問題です。銃砲弾の弾心に使用される金属で、元素記号がWの金属は何?」
「タングステン!」
幸い知っている問題だったので、一ポイントを得る事が出来ました。素早く次の紙を取りに走ります。
「おっと、初めからこれとはついていない。この番号はハズレです!」
反対の朝霞さんの方に走った人がハズレを引いたようです。一生懸命走ったのが無駄だったというショックは、疲労を加速させるでしょう。
紙のエリアに走り、近くに落ちていた紙を拾います。開けると、これもユウリさんの出題でした。走る距離が少なくて済むので助かります。
「問題です。氾濫によりエジプトの繁栄を支えてきたナイル川ですが、現在ではダムにより氾濫は起きません。さて、ナイル川の上流に建設されたダムの名前は?」
「アスワンダム!」
二問目も問題なく答える事が出来ました。最後の問題を求めて、休むことなく走ります。
「正解!一抜け、おめでとうございます!」
走っている最中に、朝霞さんの方から勝ち抜けを祝福する言葉が聞こえました。僕はこれ以上ない効率で行動していますが、大人と子供では走る早さが違います。僕が二問答える間に三問正解してしまう人が出るのは当然と言えるでしょう。
急いで紙がばら蒔かれたエリアに走り、手近な紙を拾います。開いてみると、今度は朝霞さんの方の問題でした。流石に三問連続でユウリさんの問題とはいきませんでした。
走っている間にも次々と通過を祝福する声が聞こえます。ここまで勝ち抜いて来る人達だけあって、誤答は殆どありません。
朝霞さんの所に着くと、先客が二人居ました。先頭の人は正解し勝ち抜けです。残り人数が少なくなり、少し焦ってしまいますがどうしようもありません。
「残念、この番号はハズレだっ!」
前の人はハズレを引いたようです。一瞬力が抜けて崩れ落ちそうになりましたが、すぐに立ち直って走っていきます。前の人がどいたので、紙を朝霞さんに渡しました。
「何という事だ、カオルちゃんもハズレを引いたっ!」
ここに来て、僕までハズレを引いてしまいました。踵を返し、次の問題を得るために走ります。しかし、紙がばら蒔かれたエリアに行く途中で無情な声が響きました。
「最後の勝ち抜けが決定だぁ!おめでとう!」
こうして、僕の挑戦は終わってしまったのでした。