僕、連れ回されました
遅くなりました
人生初コンコルドを体験した翌日。ホノルル市街のホテルに宿泊した僕達は、朝食を食べて海岸へと歩きました。なお、今日の衣装は指定が無かったので持参した私服です。
「皆さんお待たせしました。ハワイでのクイズと言えば、やはりこれですね」
「これから出されるクイズに、合っていると思ったらマル、間違えていると思ったらバツのパネルに飛び込んで下さい。正解ならマットに、不正解なら泥のプールにご案内となります」
何度も動画で見た、お馴染みのクイズです。まさかそれを自分がやる事になるとは思いませんでした。などと思っていたら、最初の人が挑むようです。
「問題、ハワイ王朝最後の女王様は、日本の皇室に結婚を申し込んだ。マルかバツかどっち!」
回答者の大学生さんは、迷わずにマルへと走りました。確か、アメリカの支配を防ぎたくて結婚による同盟を申し込んだ筈です。
マルに飛び込んだ大学生さんは、マットの上で喜んでいます。僕もその問題が良かったです。わかる問題が出れば良いのですが。
三人に一人位の割合で泥人間が生まれ、悲鳴と歓声が交わります。そしてとうとう、僕の番がやってきました。
「問題、キラウエア火山では、落ちている石を持ち帰ると逮捕される。マルかバツか!」
この話しは変わった法律の例として聞いた事があります。自信をもってマルに飛び込むと、灰色のマットが沈んで体を支えてくれました。
「カオルちゃん、おめでとうございます。自信満々でしたが、知っていましたか?」
「はい、以前に何かで聞いた事がありました。知っていた内容でラッキーでした」
スタッフさんの誘導でマットから降り、ずっと付いてくれているカメラさんの問いに笑顔で答えます。正解者の集合場所に行って程なく、全員の挑戦が終わりました。
「君達五十二人がアメリカ本土に上陸だ、おめでとう」
朝霞さんの祝福に、僕達は握手したり肩を抱き合って喜びました。ただ、女子大生やOLのお姉さんに抱きつかれたのには困りました。壁のようになり、僕に男性が近寄るのを阻止しているかのようです。
僕、中身は男だということを忘れられていないでしょうか。自分にもあるとはいえ、柔らかい胸部装甲が当たるとどうしても意識してしまいます。
その後、僕達は夕方まで自由時間となりました。司会のお二方やスタッフさんは敗者の罰ゲームを行わなければなりません。
「カオルちゃん、私達とお買い物行きましょうか?」
「え、いえ、僕は・・・」
真珠湾に行ってみたかったのですが、先程男性を排除していた御姉様方に捕まりました。これは、とても否とは言えない雰囲気です。
救いを求めて男性回答者の皆さんの方を見ましたが、あからさまに視線を逸らされてしまいました。どうやら僕に味方は居ないようです。
「ここは安全な日本ではないし、女性は女性で固まって行動していた方が安全よ」
「忘れているかもしれませんが、僕は生物学的には男性ですよ?外見はこうですが中身は男性ですからね?!」
中身の性別を忘れ去られていたようなので、改めて言わせてもらいました。しかし、効果は極めて薄かったと言わざるを得ません。
「こっちはカオルちゃんみたいな娘に対して寛大だけど、だからこそ毒牙にかけようと狙う男も多いのよ。それなら、いっそ私達が・・・」
「危険度という点では大差ないような気が・・・ちょっ、いきなりなんという店に!」
いくら拒否しようと多勢に無勢です。十人がかりで周囲を囲まれれば、逆らう事など出来はしません。いや、力ずくでやる事も不可能ではないのですが、女性に手荒な真似をするなど選択肢に入れる以前の問題です。
「これなんか似合いそう!」
「ここは意外性を求めて黒という手も・・・」
三角形の布地を手に真面目な顔で議論を繰り広げる御姉様方。店員さん、自然に混ざっていないで彼女らを止めて下さい。
「楽しかったわぁ」
「この楽しみを続けるため、私達は負ける訳にはいかないわね」
夕暮れが近付きホテルに帰る頃には、僕は精も根も尽き果ててしまいした。逆に御姉様方は肌が艶々でテカテカとなっています。
どのような店を訪れて、僕がどのような目にあったのか。それは黙秘権を行使させてもらいます。それを思い出すと、僕のライフはゼロを通り越してマイナスとなってしまいます。
翌朝、アメリカ本土に上陸するためホノルル空港へと移動しました。そんな僕らを待っていたのは、ちょっと変わった機体でした。
「あっ、あの機体は・・・Anー148!」
「知っているのか、かみなり電!」
前にも聞いたやり取りが繰り返されました。機体の天井の上から延びた翼に、大きなエンジンが二機付いています。よく羽田や成田で見る事が出来る飛行機とは、一線を画していました。どうやらロシアの旅客機らしいです。
金髪碧眼の美人スチュワーデスさんにもてなされ、僕らはラスベガスへと飛びました。
無事に本土上陸は果たせましたが、僕はどこまで勝ち残れるのでしょうか?