僕、雲の上を飛びました
「あ、あの機体はっ!」
「知っているのか、かみなり電!」
あの特徴的なフォルムを見れば、殆どの人はあれが超音速での営業飛行を行った唯一の機種であるコンコルドだとわかります。しかし、お約束のやりとりを平然と行う彼らとは美味い酒が呑めそうです。
未成年ですし、バレれば一発で社会的に死亡するので絶対にやりませんけどね。
「先程告げられた機体番号、とんでもない代物だぞ。どこから引っ張り出して来たのやら」
「俺の記憶によれば、コンコルドの製造機数は十六機。一機は事故で喪われたから現存するのは十五機。十分にとんでもないと思うのだが、どういう意味なのだ?」
「コンコルドには三種類あるのだ。皆が知っている量産型が十二機。量産型の前に作られた先行量産型が二機。そして、初めに造られた試作機が二機だ。機体番号が本当ならば、あの二機は試作機ということになる」
どうやら、コンコルドの中でも貴重な機体のようです。イッテレさん、どこからそんな機体を調達したのでしょう?
「だが、これで羽田や成田ではなくここから出発という理由に納得出来たな」
コンコルドは、離陸するのに三千四百メートルの滑走路を必用とします。しかし、羽田には三千三百六十メートルの滑走路しかありません。
成田には四千メートルの物があるそうですが、滑走路が二本しかないので番組で一本を独占するのは難しいのでしょう。
「これから皆さんに搭乗してもらいます。F組はすぐにフライトとなり、G組は一時間半待機となります」
「G組はその間にペーパーテストを受けて貰います。F組は現地に到着後、G組の到着を待つ一時間半にペーパーテストを受けて貰います」
ユウリさんと朝霞さんの指示に従い、それぞれの機体に搭乗します。僕らの機体は待機なので、轟音を響かせて滑走していくコンコルドを小さな窓から見送りました。
「皆さん、ペーパーテスト頑張って下さい。終わったら三時間半の超音速の旅が待っていますよ」
ユウリさんの激励に、皆が気炎をあげてテストに取り組みます。僕も全力で挑みましたが、どれだけ正解出来たのか少し不安になりました。
コンコルドは長い時間をかけて加速し、大空へと飛び立ちました。グングンと高度を上げ、白い雲は視界の遥か下となる高度を飛んでいます。
「しかし、一時間半ずらすとは上手く考えた物だな」
「ああ、しっかりと安全対策をされているのだから畏れ入る」
何でも、すぐに飛ばずに一時間半ずらしたのは事故に対する予防策らしいのです。ハワイにも三千四百メートル級の滑走路は一本しかないそうで、それが空かないと次のコンコルドは着陸出来ません。
もしも事故で滑走路が使用不能となった場合、二機目は別の空港に飛ばなければなりません。しかし、航続距離七千二百キロメートルのコンコルドでは、短い滑走路に強行着陸するか海に着水するしか手だてがなくなります。
日本とハワイの距離は六千六百キロで、巡航速度二千百キロちょっとのコンコルドならば三時間半で到着です。一時間半ずらす事で、一機目に事故が起きた場合に日本に戻る余裕が生まれ万が一の事態に備えているというのです。
「そこまで知りませんでした。このクイズの本戦に出るだけあって、皆さん物知りなのですね」
親切に教えてくれた周囲の人達にお礼を言うと、皆さん顔を赤くして下を向いてしまいました。
「もうすぐホノルル国際空港に到着します。到着後、ペーパーテストの成績が悪い方の機体は横田にトンボ返りとなります。皆さん、自信はありますか?」
ユウリさんの問いに、皆が手を突き上げて応えました。落ちる確率は五割です。無事に着陸した機体は減速し、ゆっくりと駐機場へと進みます。
先に来ていた機の近くに停止すると、機体に燃料補給の為のホース等が繋がれメンテナンスが開始されました。このまま日本に帰るのではないかと不安になります。
こちらの機に乗っていたユウリさんが機外に降りました。あちらの機からは朝霞さんが降りたのが見えます。そのまま乗っていたら、日本に帰る方の機に乗っていた人が司会を続行出来なくなるのでそのためでしょう。
「では、結果を発表します。日本に帰るのは、こちらの機体となりました!」
機内のスピーカーからユウリさんの声が聞こえます。その声と同時に、僕らの機体が動き出しました。落ちたのかと、機内のあちこちから落胆のため息が聞こえます。
「おい、あれを見ろよ」
「あっ、これって・・・」
動き出したのは、僕らの機体だけではありませんでした。F組の機体も動き出していたのです。そしてあちらの機体は滑走路へ、僕らの機体はターミナルビルへと向かっていました。
「おめでとうございます、君達が勝ち抜けだっ!」
朝霞さんの祝福が機内スピーカーから流れると、機内は歓声に包まれました。落ちたと見せかけて実は合格。この番組の常套手段ですが、実際にそれをやられると心臓に悪いです。
ともあれ、ハワイには何とか到着しました。次は本土到着を目標に頑張ります!