僕、米国に入国しました
部屋で朝食をとり、集合場所であるロビーに向かいます。僕同様ロビーに向かう人達の目線が集中しているのごわかります。
「カオルちゃんもか・・・」
「ユウリちゃんとお揃いとは羨ましい!」
ロビーに入ると、そんな声がヒソヒソと聞こえてきました。ユウリさんとお揃いということは、彼女もこれと同じ衣装なのでしょう。一体どんな意味があるのでしょうか?
注目は集めているものの、話しかけてくる人はいません。僕らはニューヨークを目指す同志であり、同時に蹴落とさなければいけない敵でもあるのです。
「全員集まったようですので、説明を開始します」
「ユウリちゃんとカオルちゃんの衣装に関しては、局スタッフの趣味ということでご理解下さい」
ユウリさんが真面目に進行しようとしたのですが、朝霞さんが脱線させます。スタッフさん、単なる趣味でこんな衣装を用意したのでしょうか。
「国内予選を勝ち残った百六十人の皆さんには、これから二機の飛行機に別れてハワイへと飛んでいただきます」
「その際、この箱の紙を引いてG組とF組に別れてもらいます」
二機の飛行機に別れるのは毎年の事で、機内にて行われるペーパークイズの結果で片方の飛行機は羽田にトンボ返りとなっています。
今年は予選会場が羽田から変更になっていますが、そこは変わらないようです。でも、何故に組分けがGとFなのでしょう。連合艦隊の略称から取ったのでしょうか?
「Gを引いた人は私の方に。Fを引いた人は朝霞さんの方に集まって下さい」
次々と紙をひいていき、男性陣でGを引いた人からは歓声が。Fを引いた人からは落胆の声があがります。
「おいおい、ユウリちゃんの側にいたいという気持ちは分かるが少しは隠してくれ。そうでないと落ち込むぞ」
朝霞さんの泣く仕草に笑いがおこり、女性陣から「私がなぐさめてあげる!」なんて声があがったりしました。そして僕が引く番になり、手に取った紙に書かれていたのはGの文字でした。
「おっしゃあ、ユウリちゃんとカオルちゃんが居るなんて最高だ!」
Gを引いた皆さんは、拍手と笑顔で迎えてくれました。しかし、この後のペーパークイズで足を引っ張らないかが不安です。正直にそれを打ち明けると・・・
「大丈夫、二人が居てくれたら俺達は百二十パーセントの力を出せる!」
「勝利の女神が二人も居るのだ。これで負ける筈がない!」
男性陣はテンションが上がり、女性陣もそれに同調しています。逆にFの班は士気が落ち込んでいました。
「俺達が勝ち抜いたら、カオルちゃんが落ちる・・・だと?」
「本気で解いたら、カオルちゃんがトンボ返りになるのか。かと言って手を抜けば俺達がトンボ返り・・・一体どうしろと言うのだ!」
そこは全力で解答しましょうよ。これはそういう番組なのですし。
ともあれ、組分けが終わった僕達は二台のバスに分乗して空港に向かうのですが、この付近に国際空港など無い筈です。どこに向かうのでしょうか?
バスは国道十六号線を走り、沿道に金網が長く続きます。その向こうには広い空間と幾つかの建築物が散見されました。福生名物の横田空軍基地です。
「ちょっと待て、俺達は飛行機に乗る。そして空軍基地だと?」
「おい、流石にそれはないだろう。いくら何でも・・・」
僕もそれは無いと思います。しかし、それを裏切るようにバスは厳重に警戒されたゲートを潜り日本国内にある米国へと侵入しました。
「おいおい、これ、マジかよ!」
「シャレにならないぞ。イッテレさん、気が狂ったか?!」
出発地がこの横田基地ならば、そこに近い東京真夏ランドて予選をやったのにも頷けます。しかし、何がどうなったらこんな事態になるのでしょうか。
一つの建物の脇でバスが止まり、全員が降ろされました。僕らの目の前には、勲章を下げた軍服を来た偉そうなおじさんが立っています。
「皆さん、米国空軍横田基地へようこそ。皆さんにはここで出国手続きをしてもらい特別機でハワイへと飛び立ってもらいます」
ここからフライトで間違いないようです。僕達は手続きを済ませると、再び乗ってきたバスに乗り込みます。
「さあ、見えてきました。あれが私達が乗る特別機でここから飛び立つ事となった原因の機体、F-WTSSとG-BSSTです。私達はG-BSSTに乗り込みます」
その飛行機が見えると、車内のざわめきが大きくなりました。その機体は、普段僕達が見慣れている旅客機とは大きくシルエットが異なるからです。
飛行機にこれといった興味がなく、ボーイングとエアバスの区別もつかない僕にもそれがどんな飛行機かは知っています。
長方形ではなく三角形をした翼に、少し折れ曲がり下を向いた機首部分。今は世界のどの空港にも配備されていない旅客機がそこに佇んでいました。
この機体が羽田を使えなかった理由です。