僕、盛装させられました
「はい、道を開けて下さい!」
「もうすぐ二次予選が始まりますよ!」
僕は今、番組のスタッフさんに守られてホテルから二次予選の会場に向かっています。周囲には二次予選の参加者や見物に来た人達が集まり、中々進めない状況です。
「くっ、歩きにくいし恥ずかしい・・・」
「あら、よく似合っていますよ。このまま連れ去ってしまいたい程に。・・・突破出来る隙間があれば抱いて逃げるのに」
すぐ横で守ってくれている女性のスタッフさんが不穏な発言をしています。僕、敗退しても帰れないのではないでしょうか。
「カオルちゃーん、こっち向いてー!」
「女子が男子を襲っても、罪に問われないわよね。日本の法律、グッジョブだわ!」
ちょっと、そこのお姉さん!他人の意思に反する行為を強制する行為は、強要罪という犯罪になりますから!お願いですから早まらないでください!
何故僕がこんなに囲まれているのかというと、今日の服装が原因なのです。純白のマーメイドラインのドレスは肩を惜しみ無く露出させ、肘まである長い手袋が清楚な雰囲気を醸します。
真珠があしらわれた白いハイヒールをはいた足は、膝までのタイツに覆われガーターがそれを固定しています。頭にはクリスタルが輝く銀の冠が乗せられ、このまま舞踏会に出ても違和感のない出で立ちとなっています。
「僕、これから出るのはクイズだよね?舞踏会ではないよね?」
「誰からも文句など出ないので安心して下さい。むしろ、もっと見せてと催促されるでしょう」
いい笑顔で即答する男性スタッフに、ため息を禁じ得ません。何故こんな事になっているのか。それは昨晩の騒動の後の話になります。
「すいませんでした。腕、大丈夫ですか?」
真夜中にいきなり起こされた僕は、触れていた腕を無意識に極めていました。何事かと事情を聞いてみれば、番組名物の夜襲だそうです。
真夜中に突撃されて撮影される事に不満はありますが、事務所と両親の許可を得ていると言われては文句の付けようもありません。
「神通、病院に行っておいた方がよくないか?」
「だが、レポートが。撮影しておかないと、番組に穴を開ける事になるぞ」
毎年行われている夜襲のコーナーが中止となれば、別の企画で穴を埋めなければなりません。しかし、急にそれをやれと言われても企画の発案もその準備も出来ません。
「本当に申し訳ありません。僕が何か協力出来ないでしょうか?」
事の発端は僕なのです。番組に迷惑がかからぬよう協力するのは当たり前なので協力を申し出ました。まあ、デビューしたてのド新人の僕にやれる事など無いに等しいでしょうけど。
「企画という程ではないですけど、カオルちゃんにやって欲しい事ならあるわね」
駆けつけたスタッフさんの一人がそう言うと、どこかに電話をかけ始めました。
「そう、あの衣装よ。大至急東京真夏ランドまで持ってきて。カオルちゃんか着てくれるのよ!」
何やら僕に着せたい衣装があるようです。衣装を着るだけで少しでも罪滅ぼしになるのであれば、僕に否やはありません。
「おい、何をやろうとしているんだ?」
「前に衣装部の子達と、機会があったらカオルちゃんに着せたい衣装を作ったのよ。えっと・・・これこれ!」
女性スタッフさんは、質問をして男性スタッフさんにスマホの画面を見せています。恐らく、衣装の写真を撮っておいたのでしょう。
「これは・・・大殊勲だ!カオルちゃん、明日の二次予選で用意した衣装を着て欲しい。そして、勝ち残った回答者一人一人に握手して貰えないかな?」
「それ位ならば構いませんが・・・」
どんな衣装なのか気になりますが、僕に選択権はありません。まさか、全年齢の番組で放送出来ないような衣装という事はないでしょう。
そして翌朝、テレビ局衣装部の人が運んできた衣装を見て絶句してしまいました。硬直している僕を取り囲んだ女性スタッフの方々と衣装部の方々は、着ていた服を脱がせコルセットを嵌め、衣装を着せて、髪をセットし、化粧を施してしまいました。
「こ、これは・・・」
「私達は、至高の女神を生み出してしまったのかもしれないわ」
姿見を見せられた僕は、どこぞの異世界アニメの王女様がいるなーと現実逃避をしていました。巫女服やナースなどコスプレをお仕事でさせられてきましたが、ここまでされた事はありませんでした。
「さあ、時間があまりないわ二次予選の会場に行きましょう」
「えっ、このまま行くのですか?ちょっ、待って、心の準備がまだ・・・」
こうして、僕はドレス姿で二次予選に参加することとなったのです。おかしい、何がどうしてこうなった・・・
おかしい、普通に二次予選に参加させる予定だったのに・・・
何がどうしてこうなった(笑)